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【決定版】交通事故の評価損について

今回のテーマは交通事故の物損における評価損です。
保険会社は格落ち損という言葉を好んで使いますが、要するに事故によってリセールが下がったであろう部分を相手に請求できるかという問題です。

交通事故におけるいわゆる裁判基準を記載した本が毎年2月頃に発売されるのですが、今年の裁判官の講演録のテーマが評価損だったのでこれを簡単にまとめてみたいと思います。
(満田智彦裁判官『民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準下巻2026』5頁以下参照。通院慰謝料のいわゆる裁判基準もこの本に掲載されていますし非常に権威のある文献です。2002年に同様のテーマで発表がありましたが今回アップデートされた形になります。)

結論としては、評価損発生の条件を満たしても実際に請求するには訴訟が必要なことが多く、請求額がよほど高額にならない限りはなかなか難しいというのが実情だと思います。


1 事案の概要

先生!私の買ったばかりの愛車が追突を受けました。
相手から修理代の支払いを提示されましたがそれだと当てられ損じゃないですか!どうなっているのか解説していただきたいです。

物損のみの事故の場合、慰謝料の請求ができないので、一般的には実際の損害の補填がなされるだけです。
ただし、評価損と言って、リセールが下がるかもしれないことを損害として相手に請求できる可能性があります。
ちなみに、評価損は相手保険会社の和解案の提示に含まれない(わざわざ教えてくれない)可能性が極めて高いので、物損のみの事故で過失割合に争いがなくても弁護士が必要なケースの一例です。

2 評価損とは

まずは定義ですね。

評価損とは修理をしても中古車市場において価格が低下することです。
細かく分けると以下の2つに分類されます。

技術上の評価損:修理をしても機能や外観に何らかの欠陥が残存したために残る評価損
→修理しても直せない場合は普通は物理的全損になるのでこちら評価損はほぼ登場しない概念です。

取引上の評価損修理による欠陥が残存していないものの、事故歴・修復歴があることにより隠れた欠陥があるかもしれない、縁起が悪い等と感じられることにより生じる評価損
→以下ではこちらを念頭においてください。

例えば、仮にバンパーのみが壊れて修理代40万円かかるとします。これを修理したら完全に元通りになったと言えるのではないか?それ以上に損害が生じているのか?というのが評価損の論点の本質ではないかと思っています。

3 どういう場合に評価損が請求できるのか

まず、①骨格部分、エンジンなど走行性能や安全性能に関わる部分に事故の影響が及んでいる可能性がある場合に限られるという説があります(この説に依拠していると思われる下級審裁判例もあります)。

保険会社と交渉していると基本的にこの説を主張して評価損は発生していないと回答されることが多いです。

ただし、冒頭の書籍で多数説と紹介される説は、②修復歴に至らなくても初年度登録からの年数、走行距離、損傷の部位、車種等を考慮して評価損を認める説です。

これは、修復歴に至らなくても事故車の買取価格が下がるので、それを考慮すべきという見解です。

修復歴って何ですか?

(1)修復歴

自動車公正競争規約11条(10)、同施行規則14条によれば、フレーム、クロスメンバー、フロントインサイドパネル、ピラー、ダッシュパネル、ルーフパネル、フロアパネル、トランクフロアパネルが修理および交換することで復元された場合、中古車販売業者は修復歴があることを表示する義務を負います。

カーセンサーなどで検索するとわかりますが、修復歴ありにすると価格がはっきり下がります。
修復歴まであった方が評価損の請求が認められやすいのはもちろんですが、上記の通り、裁判例は修復歴がなくても評価損を認めるものが多数です。しかし、保険会社は修復歴必要説に立って、かなり強硬に争ってきますので裁判までやらなくてはいけないというのが一つの高い壁になります。

(2)高級車種であること

基本的な考えとして高級車であればあるほど評価損は認められやすいです。
国産車の大衆車だと初年度登録から1年半年程度まででないと評価損の請求はできません。
一方で高級外車は初年度登録から3〜5年程度でも認められる可能性があります。国産高級車で1〜2年程度までとなります。
※レクサスのみ国産車ではなく高級外車寄りな扱い。

保険会社も交渉だと「高級車」ではないからダメだという回答をよくしてきます。
高級車が何なのかは諸説ありますが、少なくとも500〜600万円程度であれば高級車ではないからダメなどと保険会社に言われることはないように思います。

(3)走行距離が短いこと

高級車の場合、2万キロ程度までであれば請求できる可能性があり、1万キロ未満であればより評価損が請求できる可能性が高まります。
一方で大衆車の場合は1万キロを超えると請求できません。

(4)初年度登録からの経過年数

高級外車の場合は3〜5年、国産高級車の場合は1〜2年、大衆車の場合は1年半を超えると請求はできません。

古かったり過走行である車の場合、何らかの不具合があることを想定した上で取引がされるので事故歴が取引上大きな意味を持たなくなるということです。

4 評価損としていくら請求できるのか

結局いくら請求できるんですか?

計算方法も諸説あるのですが、わかりやすさ・立証のしやすさ重視で修理代金に一定の割合を掛けるという方法を採るものが圧倒的多数です。

評価損が認められる場合は修理代金の10%〜30%程度のものがほとんどです。
軽微な事故だと修理代金100万円未満のものが多いので評価損として争いになる金額はその10〜30%ということで少額になることが多く、そのために訴訟にしにくいという実情があります。

5 まとめ

これまで多くの弁護士は、「外国車・国産人気車種では初年度登録から5年程度、走行距離で6万キロ程度、国産車では初年度登録から3年程度、走行距離4万キロ程度を経過すると評価損が認められにくい」(冒頭の文献の2002年版の講演録参照)という記載を基準に考えていましたが、今回の基準はこれまで述べてきた通り、それより若干厳しいように思います。

私の交渉の経験で、某大手保険会社から、「評価損は(例外がないわけではないが)、初年度登録から半年以内、修復歴は必要で修理代の3割が上限」などと言われたことがあるので、保険会社の内部基準とこれまで説明してきた裁判所の考える基準にも開きがある(=裁判が必要になる)というのが評価損の難しいところだと思います。

保険会社が認めたがらない損害費目の一つなのは間違いないのですが、条件次第では請求可能なところ、その条件がやや詳細に、現役裁判官によって解説されましたというのが今回の記事になります。

ご参考にしていただければ幸いです。


交通事故のご相談は二子玉川駅最寄りのふたこ法律事務所までお願いいたします。

以上

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