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民事執行法改正で債権回収はどう変わる?

2020年の民事執行法改正における債権回収一般に関する記事です。

弁護士の浅野剛です。

このブログは身近な法律問題を架空の法律相談形式でわかりやすく説明するものです。

第二回は2020年5月17日までに施行される改正民事執行法の債権回収編です。

財産調査について、これまでは弁護士会照会によるしかありませんでしたが、今回の改正で、裁判所が①預金・株式・国債など、②不動産、③勤務先を照会する制度が創設されました。

賢く活用してあなたのお金を取り返しましょう。

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相談者:私は知人に頼まれて200万円を貸しました。借用書まで作ったのに返してくれないため裁判で判決を得ましたが、知人とは連絡がとれず回収の見込みが立ちません。とりあえず今すぐできることとしてはどのような方法がありますか?

私:はい。現行法における債権調査の主な方法としては弁護士法23条の2に基づく弁護士会照会があります。

弁護士会照会には以下の特徴があります。

①弁護士しか行えない。

②照会された相手は弁護士法に基づく回答義務を負いますが罰則がないため回答が得られない事もある。

③債務者に対して秘密裏に行える。

④照会を行う弁護士会への事務手数料が1回につき1万円弱、期間が1か月程度かかる。

 本件では、以下の財産調査を弁護士会照会等で行うことが考えられます。

①預貯金

 三大メガバンクやゆうちょ銀行などは支店を特定せずに預金口座の有無と回答時の預金残高について照会できます。その他の金融機関であれば支店まで特定する必要があります。

 ※債務名義が公正証書だと回答しない場合やそもそも一律に回答に応じない金融機関もあります。

②自動車

 ナンバーがわかっていれば名義人が確認できます。国産車ではハイエースなどの一部を除いて大した値が付かないケースが多いです。

③生命保険の解約返戻金

 これは保険会社を特定した上で照会をかける必要があります。

④不動産

 相手の住所の登記を取得し、名義を確認します。他に相手所有が疑われる不動産がある場合も同様です。

⑤動産

 貴金属などが考えられますが、所在場所を特定する必要があります。執行しても大した金額にならないことが多く費用倒れになる可能性があるため滅多に行いません。

⑥株・仮想通貨、勤務先

 現状有効な調査方法はありません。

さらに、ご自身での調査や探偵を利用した調査により財産が判明することもあります。

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相談者:財産開示手続(民事執行法196条以下)というものがあると聞いたのですがお願いできませんか?

私:財産開示手続というのは債務者を呼び出して財産状況について陳述させるという手続ですね。これは平成15年に導入されたのですが、以下の点から実効性が疑問視されています。※利用実績は年間千件程度。そのうち何らかの財産の開示がなされたのが約30%程度です。

①申立権者が限定されている

 債務名義(強制執行の根拠となる文書。典型例は確定判決。)について支払督促や公正証書だとダメで、確定判決による必要があります。

②罰則が弱い

 最大で30万円の過料で前科など付かないため、不出頭も心理的に容易でした。

③手続が煩雑

 把握している財産に強制執行しても完全な弁済を得られないことの簡易な立証(疎明)を行う必要があります。また、公示送達が使えないため送達がスムーズに行かないと現地調査を何度も行うことになる可能性もあります。

※2020/07/21更新

公示送達が使えないとする見解には異説もあるようですので財産開示手続ではなく、その先の第三者への情報開示が目的であるならば検討の余地があるかと思います。

相談者:そうなんですね。それで、いよいよ本題ですが、今回の民事執行法改正で何がどう変わったんですか?

私:まず、⑴財産開示手続がより強力になりました。

具体的には①申立権者の限定が解除されました。

また、②罰則が6か月以下の懲役又は50万円以下の罰金になりました。

しかし、上記③の手続の煩雑さは解消されませんでした。

⑵次に、第三者に対する財産調査の手続が新設されました。

 具体的には、①預貯金・株式・国債など、②勤務先、③不動産の情報について、裁判所が各所に照会をかける制度です。

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法務省HP参照(https://o-ishin.jp/news/2019/images/9ac451ca81565a4df22ab02eb06789be6e984491.pdf

①預貯金等

 債権者が裁判所に申立てると裁判所が銀行などの金融機関に情報提供を命じ、裁判所に対して回答した情報を債権者は取得します。

 弁護士会照会と類似していますが、最大の違いは、支店の特定が一律で不要になったことと債務者に照会された旨の通知が届いてしまうことです。

 また、把握している財産に強制執行しても完全な弁済を得られないことの簡易な立証を行う必要がある点も弁護士会照会と異なります(この要件のことを難しい言葉で不奏功要件といいます)。

②勤務先

 債権者が裁判所に申立てると裁判所が市町村や年金機構等に情報提供を命じ、裁判所に対して回答した情報を債権者は取得します。

 勤務先が分かれば給与の差押えが可能になりますが、勤務先は重要なプライバシーであるためこれを照会できる債権者は、養育費などの扶養義務に関わる請求者又は生命身体への損害賠償請求者に限られています。

 また、把握している財産に強制執行しても完全な弁済を得られないことの簡易な立証を行う必要があるばかりでなく、財産開示手続を先行させる必要があります。

 

③不動産

 債権者が裁判所に申立てると裁判所が登記所に情報提供を命じ、裁判所に対して回答した情報を債権者は取得します。

 勤務先情報と異なり、債権者の限定はありませんが把握している財産に強制執行しても完全な弁済を得られないことの簡易な立証を行う必要があるばかりでなく、財産開示手続を先行させる必要がある点は同様です。

 ただし、「不動産に関する手続は公布から2年を超えない範囲で政令で定める日までは適用しない」(改正執行法が施行される2020年4月1日から更に2年程度先)という経過規定が置かれているため、実際に不動産の照会を行えるのはまだしばらく先になりそうです。

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3つの照会の手続についての比較

相談者:結局私のお金は返ってくるんですか?

私:債権回収が成功するかは財産調査が上手くいくかによるところが大きいです。

 今回の民事執行法改正で財産調査の方法が拡充されたので上手く活用すれば回収の見込みは以前より高まります。

 今回紹介した財産開示制度や第三者に対する財産調査の手続の前提となる債務名義(確定判決や公正証書など)は、改正法の施行前に取得したもので大丈夫なので、回収に不安がある場合は今のうちに債務名義を取得しましょう。

なお、改正民事執行法の施行は2020年4月1日となっています。

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