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共同親権に関する民法改正のまとめ

今回のテーマは2024年5月に公布された共同親権に関する民法改正です。
大きく話題になっているのでたまに聞かれるのですが、まだ解説書籍がないので要綱案や改正法の条文等を読んで自分用にまとめたものになります。
率直な印象としては、離婚給付(財産分与・養育費等)に関する取り立てが強化されていることについても共同親権導入並みのインパクトがあるように思いました。
解説書籍が出て実務の動向が分かってきたら解説の続編を出すかもしれません。


先生!共同親権に関する民法改正が話題ですが何がどう変わったのですか?

今回は色々変わっています。以下に簡単にまとめてみました。

1 共同親権の条文の新設(824条の2)

これまでは、婚姻時は共同親権、離婚後は単独親権でした。
改正法施行後も、離婚時にこれまで通り単独親権を合意することもできますが、希望すれば共同親権が継続します。
ただし、共同親権とするかどうかについて、合意に至らず裁判所が判断する場合には、「子の心身に害悪を及ぼすおそれ」があるか、「暴力等を受けるおそれ」があるか(819条7項)により判断されます。

また、共同親権になった場合でも「急迫の事情」があったり、日常の行為に関するものは単独で親権を行使できますし、協議が整わない場合には裁判所に決めてもらうこともできます(824条の2)。

モラハラなどでどうしても単独親権にしたいケースで、心身への害悪や暴力等の立証はこれまでの実務の感覚からすると極めて困難ですが、今後どのように運用されるのか注目したいです。
また、共同親権の場合に例外的に単独で親権を行使できるとありますが、同意をもらう側からすれば微妙な判断ができない(リスクを負えない)のであらゆるケースで両方の同意を出してくださいという運用になる懸念があります。
現状では線引きが曖昧だと感じますし、裁判所のリソース的に調整手続を運用できるのかという懸念があります。

2 養育費等の回収の確実性の向上

まず、養育費請求権に先取特権が付与されました(民法308条の2)。
また、法定養育費制度(父母の取り決めがなくても離婚時から当然に発生する養育費。民法766条の3)が新設され、こちらにも先取特権が付与されています。
これまでは、離婚後に養育費の調停や審判を経なければ義務者の財産を差し押さえできませんでしたし、そこまでたどり着くのにざっくりと1年程度はかかっていました。
(請求時を起算点として、決定時から遡って請求できるのですが、その間一切お金が入ってこないことに対する改正です。)
先取特権が付与されたことで養育費の調停等を経ずにいきなり給与等を差し押さえることが可能になりました(担保権実行としての債権差し押さえ)。

また、以前当ブログ(民事執行法改正で養育費が取りやすくなるってホント?)でも取り上げた、民事執行法の改正による財産開示手続を申し立てた場合、財産の差し押さえについても同時に申し立てたこととする改正も行われています(執行手続きのワンストップ化)。

さらに、財産開示手続の呼び出しを受けた債務者が財産を開示しない場合、裁判所は債務者の住所のある市区町村に対し、情報提供を命じなければならない(民事執行法167条の17の2項)という規定も新設されていて、これはかなりインパクトがあるものだと思います。

加えて、養育費や婚姻費用算定のための収入資料についても、裁判所が情報開示を命じることができるとする規定(人事訴訟法34条の3の1項、家事事件手続法152条の2の1項)が新設され、従わなかった場合には罰則として10万円以下の過料(人事訴訟法34条の3の3項、家事事件手続法152条の2の3項)が貸される可能性もあります。

かなり思い切った改正だと思います。
これまでは給与等の差し押さえが難しいケースでは諦めざるを得ない場合が多かったと思いますが改善が期待されます。
法定養育費の具体的な計算方法等は政省令で定めるとあるのでこれから決まるのだろうと思いますがどの程度になるのか気になります。

3 財産分与についての改正

まず、これまで離婚後2年を過ぎたら財産分与の請求はできないとされていたのが5年に延長されました。

また、財産情報について、裁判所が情報開示を命ずることができるようになりました(人事訴訟法34条の3の2項、家事事件手続法152条の2の2項)。
これについても従わない場合には罰則として10万円以下の過料(人事訴訟法34条の3の3項、家事事件手続法152条の2の3項)があります。

これまでは実質的に財産情報の隠し得となるケースがありましたので改善されると良いと思います。

4 面会交流についての改正

審判・調停前の試験的な面会交流の制度が明文化されました(これまでも事実上行われていたものの明文化)(人事訴訟法34条の4、家事事件手続法152条の3)。

また、面会交流の審判の請求について、父母以外(子の直系尊属+兄弟姉妹+これら以外の者で過去に子を監護していた者)についても認められるようになりました(民法766条の2)。

父母以外に交流を認める点については賛否あるようです。
子の負担にもなるのでバランスをとった運用ができるのかというところだと思います。

5 まとめ

上記以外にも細かい改正点はありますが大まかには押さえられていると思います。
改正法の施行は公布から2年以内(附則1条)ですが、共同親権の申し立てについては施行前に離婚成立済みでも申し立てが可能です(附則2条)ので施行後は大量の申し立ても想定されると思います。

そもそも共同親権という制度自体が高葛藤(夫婦の仲がとても悪いことを裁判所ではこう呼びます)事案や重度のモラハラ事案を想定していないのではないかと思うのですが、制度の適切な運用がされるのかどうかという点について注視していきたいと思います。

以上

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