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別居してれば離婚できる?~東京高判平成30年12月5日を参考に~

裁判上の離婚事由について話題の下級審裁判例をベースに解説した記事です。ピックアップ

弁護士の浅野剛です。

 このブログは身近な法律問題を架空の法律相談形式でわかりやすく説明するものです。

 第七回のテーマは東京高判平成30年12月5日(東京高裁平成30年(ネ)第3466号)を参考に離婚事由について解説していきます。

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相談者:先生、お久しぶりです。最近更新がありませんでしたね。

私:そうですね。年末年始は忙しいですからね。

相談者:弁護士に繁忙期なんてあるんですか?

私:私の場合、12月は年内に片付けたいという交渉案件が一斉に動くので忙しいです。1~2月はその余波と確定申告で多少バタバタします。あとは気候の良い時期は相談が多い印象がありますね。逆に比較的余裕があるのが、裁判官の異動で期日があまり入らない3~4月や裁判所の夏休みのある8月ですね。

相談者:そうなんですね。あ、今日は離婚の相談に来たんですよ。

 妻とは15年前に結婚して現在中学2年の息子がいます。ただ、妻とは性格が合わないと感じて7年前から別居しており、婚姻費用を支払っていますが別居以来ほぼ交流がないです。

 7年前に市役所の無料相談で弁護士の先生から「とりあえず7年間別居していれば離婚できる。」というアドバイスを頂き、これに従ったからなのですが、今後の手続や費用、裁判の見通しなどを簡単に教えて下さい。

私:まずは離婚の手続きから確認しましょう。

 離婚には大きく協議離婚と裁判離婚があります。お互いが納得していれば離婚届を役所に出すだけで離婚できます。

 話し合いが難しい場合、離婚訴訟を考えることになりますが、離婚訴訟の前に離婚調停という手続きをする必要があると法律に定められています。

 離婚調停は簡単に言うと裁判所で行う話し合いです。

 調停委員(男女の一般人。たまに弁護士。)に交互に話を聞いてもらって調整を図ります。

 それでも話し合いがまとまらない場合、離婚訴訟を提起することができます。

 離婚訴訟では婚姻関係が破綻しているかを客観的な証拠に基づいて審理することになります。審理を取り仕切って判決を下すのは裁判官です。

 事案によりけりですが、スムーズに行けば離婚調停が半年程度、離婚訴訟が半年程度かかります。

相談者:私の妻は離婚したくないと言っていますから話し合いは難しそうです。

 費用はどんな感じなんですか?

私:まず裁判所手数料が離婚調停2,206円(収入印紙+郵券)、離婚訴訟が19,000円(同左)になります。印紙は全国一律ですが、郵券は裁判所ごとに違うのでご自分でやる場合はきちんと確認して下さい。

 弁護士費用は、最初にいただく着手金と、終結時の成功報酬があります。本件では、離婚調停につき着手金33万円、離婚に成功した場合成功報酬33万円になります。

 離婚調停から離婚訴訟に移行した場合に別途11万円を着手金として頂きます。

(※税込。あくまで一例で事案の難易度や附帯処分の申立の有無などでも変わります。)

 あとは、誰がやっても発生する費用(実費)は別途精算です。

相談者:それでは、本件の法的問題点や解決の見通しを教えて下さい。

私:日本では、婚姻関係が破綻していると裁判所に認められれば離婚が認められます。これは主観又は客観のいずれかにおいて破綻が認められれば足ります。

 具体例も民法に列挙してあるもので、①不貞、②悪意の遺棄、③3年以上の生死不明、④強度の精神病にかかり回復の見込みがない、などがあります。

 その他一般に認められているものとしては、長期間の別居、DV、重大な侮辱、浪費・不労・借財、犯罪行為、宗教活動、性生活の異常、性格の不一致などがあります。ただし、性格の不一致はそれだけでは離婚は難しいことがほとんどです。

 これらの行為を有責行為と呼び、有責配偶者からの離婚請求は厳しく制限されます。

 各有責行為の詳細な解説や、有責配偶者からの離婚請求の解説は長くなるので今回は省略します。

相談者:私に当てはまりそうなのは一方的に別居したことくらいでしょうか。妻に当てはまりそうなものは性格の不一致以外ありません。

私:実務では、明確な相手方(本件の奥さん)の有責行為がない場合、別居期間を積み重ねることで離婚への道を模索してきました。

 すなわち、性格の不一致で離婚したい場合は、とりあえず別居することが(強制的に)離婚をするための唯一の方法だったのです。

 もちろん、お金で解決する方法(和解)もありますし、実際は結果的にそうなることが多いです。

相談者:何年くらい別居すればいいんですか?

私:婚姻期間(同居期間)との対比で決まりますから一概には言えません。

もっとも、かつて、民法に5年の別居を離婚事由として定める改正を行おうという議論がなされたことがあり、5年というのは一つの基準になっています。

相談者:私は7年別居しているから大丈夫そうですね。

私:ところが、最近興味深い下級審裁判例が出ました。それが、冒頭で触れた東京高裁の平成30年判決です。

 この裁判例は、有責事由のない専業主婦が離婚に反対している場合、夫には話し合いなどにより婚姻関係を維持することが求められているから、話し合いなどを怠っている場合はたとえ別居期間が7年に及んでいても婚姻関係の破綻は認められないと判断しました。

 この判断の裏には、妻は、離婚した場合に婚姻費用の支給が打ち切られるが、専業主婦であり高齢の妻に生活費の獲得が難しく、財産分与により住む場所も失うことや、それに伴い影響を受ける子の事情などがあります。

 単に別居期間を積み重ねれば良いわけではないと明言している点も注目に値します。

相談者:私の場合と少し似た事案ですね。私の事案でもこのような判断がなされるということでしょうか?

私:似たような事案の裁判例の考え方が当該事案に及ぶかという問題を難しい言葉で判例の射程といいます。

 一見して同じような事案の判例でも、当該事案で同じような判断がされるとは限りません。

 その判断を導くに至った重要な事実が共通していると認められて、初めて判例の射程が及びます。

 さらに、この判例は高裁の判例なので、裁判所を直接拘束しない点も注意が必要です。

※以下の括弧はちょっと難しい補足

(最高裁の判例違反の判断がなされた場合は最高裁への上告事由となるから下級審はこれに拘束されるわけなので、厳密に言えば先例としての意義を有するのは最高裁の事案に対する判断を示した部分のみなのですが、最高裁の事案に対する判断以外の部分や下級審の判断も重要な参考資料にされるという意味で先例としての意義を持ちますが、前者に比べて重要度は落ちます。)

 

相談者:なるほど…。要するに事情が違うんだから判断も変わってくるケースがあるってことですね。そこまで難しい話を書面でやり取りするのは私には無理です。

 法律ってもっと機械的に判断が出るものかと思っていましたが、難しいですね。

私:弁護士に依頼した場合、最初の調停(交渉)から最終的な判決を見据えて訴訟活動を行いますが、一般の方が自分でやった場合、どうしても場当たり的な対応になってしまいがちです。

 また、弁護士に頼めば相手方とのやりとりは全て弁護士を通すことになりますから、相手方との直接的な接触がなくなり、ストレスも軽減されます。

 無料相談で方針だけを聞いても実際にその通りに落とし込むことは大変です。

本件でも法令の解釈や判例の射程を論じる必要があり難しいと思いますから弁護士への依頼をお勧めします。

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