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婚姻費用・養育費における私立学校の学費の扱い

今回のテーマは婚姻費用・養育費における私立学校の学費についてです。
当事務所のある二子玉川エリアだと私立の中高に通学されている方は多いように感じます。
そこでこういったケースで私立の学費が婚姻費用(離婚成立までの暫定的な生活費)や養育費(離婚後のお子様の生活費)にどのように反映されるのか解説していきます。

結論としては、婚姻費用や養育費で加算事由が認められる場合は基礎収入で按分という処理をすることが多いのですが、本稿のテーマの私立の学費は計算方法が若干複雑になるということです。


1 事案の説明

先生!私の年収が400万円、夫の年収が1000万円で高校生の息子が1人います。息子の私立の学費が年間100万円で離婚後に支払っていけるか不安なのですが、離婚する場合に学費はどういった扱いになるのでしょうか?

それぞれの収入に応じて、別居後離婚までの期間は婚姻費用に加算、離婚後は養育費に加算ということになります。今回は相談者様がお子様を連れて別居して最終的に親権者も相談者様になると仮定して具体的に金額を計算していきたいと思います。

2 基本的な考え方

統計上、公立学校の学費については14歳までは年額131,379円、15歳以上は259,342円であるとされています。
実はこのデータは平成26年〜28年のものでかなり古いのですが、現在の家庭裁判所の婚姻費用と養育費の計算方法について解説されている『養育費、婚姻費用の算定に関する実証的研究』(司法研修所編、2019年12月初版)という権威ある書籍に引用されている最新のデータなので現在もこの数字が用いられています(上記書籍の39頁参照)。

そこで、実際に払う学費から(すでに考慮済みの)この公立学校の学費を控除して、控除後に基礎収入で按分するというのが基本的な考え方です。

ちょっと待ってください!基礎収入ってなんですか?手取りとは違うんですか?

家裁の採用する標準算定方式においては総収入(いわゆる額面年収)から公租公課(税金)、職業費及び特別経費(職業ごとにかかるであろう経費)を控除したものを基礎収入と呼んでいて、婚姻費用や養育費の計算のベースとして用います。
年収に応じた基礎収入割合が定められていて、これを掛けることで算出できます。給与所得者で年収1000万円なら40%、400万円なら42%です。
基礎年収は額面年収のうち実際に生活費に使える額だと考えるとイメージしやすいと思います。

※婚姻費用の基本的な計算方法や基礎収入割合の一覧表などについては当コラム「婚姻費用・養育費ってどうやって決まるの?算定表って何?」をご参照ください。

3 実際の計算式

本件で学費は年間100万でここからすでに考慮済みの公立学費259,342円を引くと740,658円でこれが純粋な私立の部分の加算費用になります。
これを双方の基礎収入で按分することになりますが計算方法は上記吹き出しの通り。
すなわち、1000万円×0.4=400万円が夫の基礎収入。400万円×0.42=168万円が妻の基礎収入です。

按分の計算式は以下の通り。
740,658円×168万円(妻の基礎収入)÷568万円(夫婦の基礎収入の合計)=219,068円(妻側の負担額)
740,658円×400万円(夫の基礎収入)÷568万円(夫婦の基礎収入の合計)=521,590円(夫側の負担額)

夫側の負担額521,590円が年額なのでこれを12か月で割った月々43,466円が加算されます。
本件の年収だと婚姻費用は月額167,000円程度なので上記学費が加算されるとトータルで婚姻費用の月額は210,000円程度になる可能性があります。

養育費については基本金額が月額108,000円程度なので上記学費が加算されるとトータルで婚姻費用の月額は151,000円程度になる可能性があります。

4 夫の分担額が過大なので修正すべきという見解

しかし、学費というのはある程度一定なので、夫側が平均的な世帯より高額の年収を得ている場合、その収入額に占める教育費の割合は平均的な世帯より低くなるはずだから上記加算金額を下方修正すべきという見解が有力です。

平均的な世帯って年収いくらくらいですか?

本件のように高校に通う子どもがいる世帯だと762万円程度です。これを超えると修正される可能性を意識すべきです。
実際に私が担当した案件でもこのような修正がありました。
こういった細かい論点では唯一絶対の説が固まっていないものが多いのが実情で、わかりにくいとか判断がまちまちになるのが問題とか言われますが仕方ありませんね。

5 修正した場合の計算式

本件で夫の年収(額面)は1000万円であり上記の平均的な世帯年収を超えます。
計算式は以下の通りでやや複雑です。

夫婦の基礎年収の合計が400万円+168万円=568万円
生活費指数というのがあり、大人が100、高校生が85なのですが、上記基礎年収の合計に生活費指数の割合を掛けると子どものみの生活費の年額が算出されます。
具体的には568万円×85(子の生活費指数)÷285(親子の生活費指数の合計)=約169万円が子の生活費の年額

この169万円に生活費指数のうち教育費に占める割合を掛けると標準算定方式で考慮されている教育費の具体的な数字が出ます。
具体的には169万円×25(生活費指数に占める教育費の割合)÷85(子の生活費指数)=497,059円 
これが標準算定方式(いわゆる算定表)で考慮済みの教育費で、本件の双方の年収からすれば、この金額を超えないと加算になりません。

※生活費指数15歳以上の85に対して教育費が占める割合が25。14歳までのまで生活費指数62に対して教育費が占める割合が11(上記書籍の39頁参照。)

仮に学費が年額45万円なら1円も加算されないんですね。なかなか厳しい見解です。

本件で学費不足額は100万円ー497,059円=502,941円なので、これを12か月で割ると月額は41,911円の加算になります。

本件の年収だと婚姻費用は月額167,000円程度なので上記学費が加算されるとトータルで婚姻費用の月額は209,000円程度になる可能性があります。

養育費については基本金額が月額108,000円程度なので上記学費が加算されるとトータルで婚姻費用の月額は150,000円程度になる可能性があります。

本件のような年収(夫1000万円、妻400万円)だと学費の年額が約50万円を超えないと加算にならない点と、加算になる場合でも先ほどより月額1,500円程度加算額が減ったという点に注目していただければと思います。
もちろん双方の年収によって金額が変わりますし、同じ私立でも中学生の場合は係数も変わりますので具体的にいくら加算されるのかはお近くの弁護士にご相談ください。

6 おまけ(習い事加算との関係)

なお、習い事をしている場合の加算に上記見解を当てはめる主張(本件で言えば、習い事の金額を足しても50万円に届かないから加算が不要という主張)を見たことがありますが、一般的ではないように思います。
同じ教育費という括りでも裁判所は学費と習い事は分けて考えるようです。


離婚についてご相談があれば、当ホームページのお問い合わせ又はLINEよりお問い合わせください。

以上

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