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今回のテーマは賃料増額請求です。
ここ数年で一気に物価が上がり、賃料増額請求の通知が来たという話が身近になったと思います。
ちょっとSNSを検索すると増額は認められないので借主側は無視しておけば大丈夫という解説も見ますが、実際どうなのか・最終的にどうなってしまうのかを掘り下げて解説してみたいと思います。
目次
先生!私が自分で管理しているアパートなんですが、1部屋だけ家賃が他の部屋の半額になってしまっているものがあって家賃を上げたいのですが断られてしまいました。
どうすればいいでしょうか?
法的手続を最後までやると結構費用がかかるので昔はそれほど問題になっていませんでしたが、最近の円安や物価高、金利上昇で家賃の大幅値上げに踏み切る物件が増えています。
事案によっては弁護士に依頼して解決すべき事件類型になってきているように感じます。
進め方について順を追って説明します。
最初は当然任意交渉です。最初は管理会社や大家が手紙を出して打診するのが一般的です。
弁護士が介入する場合は根拠資料を示します。
根拠資料については不動産鑑定士の鑑定書が一般的です。管理会社の方の作成した近隣相場との比較資料や物価上昇の資料で進めてほしいと言われることもありますが、その程度で受け入れるのであれば弁護士介入前に解決しているのではないかと思います。
なお、鑑定費用ですが、一般的な居住用マンションで20〜30万円程度とのことです。
最終的に裁判で鑑定するので費用がもったいなく感じるかもですが、そもそも裁判をするかどうか(勝てる見込みがどれくらいあるのか)の判断に必要なのでこの時点で取得しておくことが望ましいと思います。
ここで合意に至れば合意書を作成して終了となります。
借主側が賃料増額に応じるメリットは何かありますか?
①大家との関係が円満になります。
→今後も長期的に住むなら無視できない要素です。
②次の増額請求を抑制できる。
→後述しますが、増額請求を認めるかどうかの判断要素として今の賃料をいつ決めたのか、以前の増額からどれだけ経過しているかというものがあります。したがって、増額請求の金額がわずかなのであればいっそ応じてしまうのも手です。もちろんすぐに引っ越す予定なら拒否で構わないでしょう。
③訴訟に至るのを防ぐことができる。
→後述しますが、訴訟になって判決で増額が認められた場合、裁判所が実施する高額な鑑定費用の一部が賃借人負担になる可能性があります。
また、増額分について「年1割の割合による支払期後の利息を付してこれを支払わなければならない」(借地借家法32条2項ただし書)とあるので、高額な利息についての請求が認められるリスクもあります。
※利息については契約書に特約がある場合もあります。
細かい点を補足しますが、賃料増額請求権の法的性質は形成権で、増額の意思表示により借主の承諾の有無にかかわらず「相当」な額につき増額されたことになりますので、利息の起算点は最初の請求が配達証明付き内容証明郵便ならその到達時点になります。
交渉が決裂した場合、いきなり訴訟に進むことはできず、調停を申し立てる必要があります(調停前置主義・民事調停法24条の2)。
東京だと錦糸町の裁判所で調停委員2名と裁判官により行われますが、相手が拒否したらそこで終わりです。
調停でもダメだった場合、訴訟を提起することになります。
訴訟においては賃料増額の判断材料として裁判所が鑑定を実施します。
費用はざっくり50万円〜100万円程度と言われていますが、一旦は原告の立て替えになります。
判決においては鑑定費用は訴訟費用という扱いなので原告が完全勝訴すれば被告の全負担になる可能性も理論的にはありますが、実際は完全勝訴の事案ははほとんどなくて、その多くが原告負担になるようです。
実際どうなるかは置いておくとしても、原告負担になる覚悟で臨む必要があると思います。
実費の負担がすごいですね!数万円の家賃増額でそんなに費用を負担するのは大変です。
最終的に判決に至った場合は、上記3の通り、増額請求時からの増額+利息の請求が認められます。
条文上は、「土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは」(借地借家法32条1項本文)とあるので、①租税その他の負担の増減、②土地・建物の価格の上昇その他の経済事情の変動、③近所の似たような物件との比較して④不相当かという判断要素が挙げられています。
②経済事情の変動には主観的事情も含まれると考えるのが有力で、当初個人的便宜で安く貸していたが時の経過や世代交代が発生した場合やテナント側の経済的事情で安く貸していたが軌道に乗った場合等は適正額まで引き上げるべきとする見解があります(コンメンタール借地借家法第三版247頁参照)。
④不相当かの判断においては、今の賃料が定められてから相当期間の経過があるかどうかが問題になります(最判平成03.11.29(判時1443−52)参照。)
ただし、一挙に高額な増額となるときは、増額の幅を考慮する等配慮すべきとする見解を示した裁判例には留意すべきです(東京高裁平18.11.30判タ1257-314は適正額と現行賃料の中間を相当とした原審を支持)。
上記述べたとおり、かなりの実費に加え、弁護士費用もかかるので、特殊事情によりあまりにも家賃が低くなっていて、そこの住人がまだしばらく出て行かないし、交渉にも応じないというケースであれば他に方法がない以上訴訟を検討することになると思います。
細かく家賃を変更したいのであれば管理コストはかかりますが最初から定期借家にする方がはるかに簡単です。
なお、訴訟をしても原告完全勝訴となるのは希というのは上記のとおりですが、実際は訴訟までいくと10%〜20%程度の増額で和解するケースが多いようです。
以上