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物権法改正~共有物の管理~

2023年4月頃施行予定の民法物権法改正について共有物の管理の箇所を解説した記事です。

今回のテーマは『物権法改正~共有物の管理~』です。

債権法改正に続いて物権法が改正されます。
今回、民法の共有に関する規定に大きなテコ入れがされた点はインパクトが大きいと思います。
施行は2023年4月頃ですが、法律自体は成立したので重要なポイントだけ簡単に解説していきたいと思います。

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上高地の焼岳山頂付近。筆者撮影。

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相談者: 先生!私は改正された物権法が施行済みの異世界から転生して来ました。
ところで、私はAさん、Bさんと建物を1:1:1で共有しています。この建物に郵便ポストを付けたいのですがどうすればいいですか?

私:建物は共有ですから現行民法に照らせば共有物の変更ということで共有者全員の同意が必要です。
 ただし、改正法においては軽微な変更(形状・効用に著しい変更が無い場合)については、共有物の管理と同じように持分価格の過半数で行うことができるという規定が新設されました。
 したがって、軽微変更に当たるならAかBの同意が必要で、軽微変更に当たらないならAとB両方の同意が必要です。

相談者:郵便ポストの設置は軽微変更に当たるのですか?

私:何が軽微変更に当たるかはこれから裁判例が集積されていくのを待つことになります。ただし、区分所有法(※分譲タワーマンションなどを規定する法律)の規定が参考にされているといわれているので、建物に関しては区分所有法が参考になるでしょう。
 手すりの設置が軽微変更に該当するようで、郵便ポストのサイズや設置箇所によっては軽微変更に当たる可能性は十分あると思います。

相談者:実は本件建物について、誰がどのように使うかを話し合う前にAが一人で無断で使用し始めています。この場合、私は本件建物を使えないのですか?

私:現行法下においてはあなたとA、B全員の同意がなければAに明け渡しを求めることはできないとする考えが有力でした。
 しかし、改正法においては持分の過半数の同意で別の者が本件建物を独占的に使用することを定めることができるようになりました(改正法252条1項後段)。
 したがって、Aの同意は不要になるのが原則です。

相談者:Aは好き勝手に使っているので出て行くことに同意なんてするはずないですからね。

私:ただし、「特別な影響」(252条3項)がある場合はAの同意も必要になります。
 特別な影響があるかは完全に事例判断になりますが、共有物の使用者の変更はこれに当たるとする立法担当者の見解があります。
 要するに、Aが出ていくということになると生活の基盤が失われるので大きな影響がある。そういったことを多数持分権者が一方的に決めるのは権利の濫用のようなものであるから場合によっては認めないよ、と言うことです。


 本件では、Aは合意に基づいて本件建物を利用しているわけではないですから、「特別な影響」があると判断される可能性は低いと思います。

相談者:私は本件土地建物を単独で使用するAに対して何か主張できないのですか?

私:改正法によりAの持ち分1/3を超える部分についての対価償還義務及び善管注意義務が明文化されました。
 したがって、Aに対して対価の償還請求や善管注意義務違反の損害賠償請求などが可能です。

相談者:私は、某YouTuberの影響で財テクとキャンプにハマっています。
そこで、本件建物を丸ごと第三者に貸して、自分は郊外の山小屋に移住するという生活に憧れるようになりました。どうすれば実現できますか?

私:現行法下ではどのような内容の賃貸借契約が共有者全員の同意が必要な「変更」(民法251条)か、共有者の持分価格の過半数の同意で可能な「管理」(同252条)に当たるか不明確でした。
 改正法ではまず、短期賃借権の規定が新設され、持ち分の過半数で短期賃借権の設定が可能になりました。なお、建物の賃借権等上限は3年です(改正法252条4項3号)。
 定期賃貸借契約でも3年以内であれば同様と解されていますが、登記制度の関係で実際に使われるとしたら定期賃貸借でしょうね。
 これらであればAかBの同意があれば可能です。

相談者:普通の賃貸借はダメなんですか?せっかくだしもっと長期間運用したいのですが。

私:更新拒絶による契約の終了が難しいので普通の賃貸借契約の場合、共有物の変更として全員の同意が必要です。

相談者:じゃあ、3年の定期賃貸借でいいです。ところで、賃貸借の件について相談しようにもAが行方不明でBが無反応なのですがどうすればいいですか?

私:共有物の管理に関するに新設の非訟手続を利用することが考えられます(改正法252条2項)。
 Aのような行方不明者に対しては公示送達のような手続(戸籍・住民票による調査及び現地調査)が必要で、Bのような無確答者に対しては2度の催告手続が必要ですが、仮にAが本当に行方不明で、Bが何の反応もしなければA、Bを除外した過半数で本件建物を賃貸することを決することができる裁判を申立てることができます。
 
相談者:仮に私がこの手続を利用せずに無断で第三者と3年の定期賃貸借契約を締結した場合、当該契約の効力はどうなりますか?

私:物権法上の効力は認められず、契約自体は他人物賃貸の場合と同様に有効になります。

 難しいのでもう少し噛み砕くと、無断売買の相手方である第三者に本件建物の所有権は移転しませんが、当該第三者との契約自体は有効に残ってしまうので無断で売った人は債務不履行の契約責任等を負うことになります。

相談者:実は私とA、Bの生活の拠点がそれぞれ、沖縄、四国、北海道になったので東京にある本件建物の管理ができそうにないが思い入れがあり手放したくないです。何かいい方法はありませんか?

私:新設された管理者制度を利用することが考えられます。
 共有持分の過半数で共有物の管理者を選任可能で、選任された管理者は共有物について善管注意義務を負います。
選任された管理者は共有物について管理行為まで行う権限がありますので土地の管理について考える上で検討してみてはいかがでしょうか?

相談者:なるほどよく分かりました。

以上

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