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【2020/11/12更新】婚姻費用・養育費ってどうやって決まるの?算定表って何?

婚姻費用や養育費の算出方法を解説した記事です。算定表の改定に合わせて改訂し、計算式の説明についてもより分かりやすく書き換えました。

第四回は2019年12月23日に公開される婚姻費用・養育費の新算定表に先駆けて、現在の実務で婚姻費用と養育費がどのように定められるかを解説します。

婚姻費用・養育費の新算定表の公開を受けて大幅に加筆修正しました(2020/11/12)

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相談者:私には6歳の息子が1人いますが、この度、妻が息子を連れて出て行ってしまいました。妻がからは婚姻費用の請求をされていますがそもそも婚姻費用って何ですか?養育費と何が違うんですか?

私:婚姻費用とは、「婚姻共同生活を営む上で必要な一切の費用をいい、衣食住の費用のほか、この監護に関する費用、教育費、出産費、葬祭費、交際費を含む」ものです。
 養育費とは、「未成年の子を監護するために必要な費用」をいいます。

相談者:先生!いつもみたいにわかりやすく噛み砕いてくれないとわかりません!

私:要するに、婚姻費用は①離婚までの期間、②奥さんと子どもの生活費を、③収入の多い方が少ない方に払うというものです。
 離婚後は奥さんの生活費は払う必要がなくなりますので、養育費は、①‘子どもが成人するまでの期間、②’子どもの生活費を、③‘原則として収入の多い方が少ない方に払うというものです。なお、成人年齢が引き下げられても養育費支払の終期は20歳のままです。

相談者:なるほど…。それで、婚姻費用や養育費はどういう計算式で算出するんですか?妻は、「算定表」という言葉を使っていましたが、生活費なんて各世帯で違うのに一律に金額が決まるなんてことが許されるんですか?

私:あなたの言うように、各世帯で生活費等が異なるため、裁判所も昔は全て個別に判断していました。
 しかし、生活費の決定に時間を要するとすると、極端な話、飢え死にしてしまいますよね。
 そこで、これから説明する計算式をベースに、「算定表」というものが作成され、両者の収入をベースに細かい事情があっても算定表の幅(2万円)で調整しましょうと言うことになっています。
 以上の趣旨から、算定表によらずに、計算式をベースにして金額を主張することは原則としてすべきでは無いとされています。

 なお、算定表は

平成30年度司法研究(養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について | 裁判所

からダウンロードできます。

 算定表の縦軸が義務者の年収(額面)で、横軸が権利者の年収ですので両方を当てはめれば婚姻費用や養育費がおおよそ分かります。

相談者:結局算定表が全てという感じなんですね。じゃあ計算式なんてどうでも良いですね。

私:そんなことはありません。算定表は計算式をベースにしているので、金額についての個別の増減事情を主張する際の参考になりますし、そもそも、子どもの数が4人以上の場合などは算定表が無かったりしますので計算式の理解は重要です。

 せっかくなので、それぞれの計算式について説明しますね。


 ⑴婚姻費用の計算式

 権利者世帯に割り振られる婚費=夫婦双方の基礎収入の合計×権利者世帯の生活費指数の和/権利者世帯と義務者世帯の生活指数の和
 
 婚姻費用支払額=権利者世帯に割り振られる婚費-権利者の基礎収入

※算出された婚姻費用支払額は年額なので12で割ると月額になります。 

 ①基礎収入を算出します。

 基礎収入とは、総収入から公租公課、特別経費を控除し、さらに給与所得の場合、職業費を控除したものです。

 基礎収入の算定式は次のようになります。


 基礎収入:総収入-(公租公課+職業費+特別経費)

公租公課:所得税、住民税、社会保険料ですが、税率、徴収率から総収入の12~31%となります。


職業費:被服費、交通・通信費、書籍費、交際費などで、統計データから総収入の20~19%とされています。


特別経費:住居費、保健医療費などです。同じく統計データから総収入の26~16%とされています。

以上からすると、給与所得者の場合、基礎収入=総収入×0.34~0.42になりますが、実際は総収入(額面収入)に対する基礎収入の割合についての表が公開されていますのでこれを当てはめて計算します。

 給与の場合、以下のようになります(新算定表で割合が変更されました)。

 額面収入(万円)   割合(%)

 0~75         54

 ~100         50

 ~125         46

 ~175         44

 ~275         43

 ~525         42

 ~725         41

 ~1325          40

 ~1475          39

 ~2000          38

例:額面年収が100万円なら基礎収入は100万円×50%=50万円

 ②生活費指数について

 生活費指数とは生活扶助基準及び教育費に関する厚労省の統計に基づくものをいいます。

  具体的には親の生活費指数がそれぞれ100、0~14歳までの子が62、15~19までの子が85になります(新算定表で割合が変更されました)。

 子どもの生活費は、子どもが大きくなればなるほど高額になるという考えに基づいています。

 ③以上の数字を上記計算式に代入すると婚姻費用が算出できます。


⑵養育費の計算式

子の生活費=義務者の基礎収入×子の生活費指数/(義務者の生活費指数+子の生活費指数)

養育費支払額=子の生活費×義務者の基礎収入/当時者双方の基礎収入の合計額

基本的な考え方は婚姻費用と同じです。

相談者:複雑ですね!というか一番肝心な部分の数字が、「統計データ」から導かれていて、納得感がないような…。

私:そうなんです。そもそも参考にしている統計データが古いのが大問題だと思います。また、現実問題として婚姻費用も養育費も全然足りないという声は聞きますね。

 そこで2019年12月23日に統計データを一新した新算定表が公表・施行されました。
 

 また、民事執行法の改正により婚姻費用や養育費の不払いについて、厳しい対応が可能になります(第一回本ブログ参照)ので、婚姻費用・養育費権利者にとっては大きな変化がある年になりそうです。

相談者:長々とご説明いただきありがとうございました。
    色々難しそうなので、先生に依頼したいと思います。

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