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賃貸マンション退去の際の原状回復費用

今回のテーマは賃貸マンション退去の際の原状回復費用についてです。
よくありそうな普通の住居用マンションを借りている個人が退去するケースです。

ちなみに個人の場合は普通は請求額が少額になりますので弁護士が介入するケースは滅多にありません。


事案の概要

先生!借りていたマンションを退去する際の原状回復費用について管理会社と揉めています。具体的には①壁紙の破れた箇所、②襖に穴を開けてしまった部分、③フローリングの擦り傷・畳のカビ汚れ、④風呂場とコンロ周りの汚れです。

原状回復費用の問題になったらまず確認したいのが賃貸借契約書書・重要事項説明書と国交省の原状回復のガイドラインです。

賃貸借契約書書・重要事項説明書

ここで原状回復費用についての特約がどうなっているかをまず確認してください。

以前別の記事『最近引っ越したんだけど敷金って返ってくるの?』で詳しく解説したので詳細は省きますが、①クリーニング費用については特約を付して金額まで記載していないと当然には認められない、②あまりにも賃貸人に有利な条項は無効になる可能性があるというのがポイントです。

大手の仲介はちゃんとした契約書を使っていますが、そうでない場合には①すら意識できていないなという契約書を今でもたまに見かけます。

国交省の原状回復のガイドライン

詳細はリンクを参照してください。

それまでの裁判例をまとめたものだと言われており、裁判でも権威のある資料です。
ある裁判では初回期日から「ガイドラインは確認しましたか?」と裁判官が何度も発言していました。

相談者様の事案をガイドラインに当てはめると以下のようになります。

(1)①壁紙の破れた箇所

まずは壁紙が破れているのが相談者様の故意・過失によるものかが問題になりますが、入居時に新しいものに張り替えていたということなので相談者の故意・過失による毀損ということになります。

修理範囲ですが、平方メートル範囲が望ましいが、既存箇所を含む一面分までは賃借人負担でもやむを得ないとなっています。

賠償価格ですが、壁紙の耐用年数は6年なので当然に全額負担ではありません。
今回入居時に張り替え→3年で退去なので、新品価格の半額になります。

色が合わなくなるので部屋一面の壁紙を張り替えると言われていたのですが、そのような主張は認められるのですか?

部屋一面の張り替えは部屋のアップグレード的要素があるので大家負担というのがガイドラインです。

(2)②襖(ふすま)に穴を開けてしまった部分

穴を開けてしまったということで相談者様負担なのは争いなし。
修理範囲ですが、1枚単位となります。
賠償価格ですが、襖は消耗品なので経過年数は考慮しません。

(3)③フローリングの擦り傷・畳のカビ汚れ

フローリングにつき、ガイドラインによれば、引越し作業で生じた引っかき傷は賃借人の負担だが、家具の設置による床のへこみや設置跡、日照による変色は賃貸人負担です。
実際に大家が裁判で請求するなら入居時の立ち会い資料(写真)が欲しいところです。
原則として通常損耗(普通に使っていて生じたもの)は大家負担なのでそもそも負担する義務があるかどうかで揉めやすい修理箇所です。

畳については飲み物等をこぼしたことによるカビは賃借人負担となっています。

修理範囲ですが、フローリングは原則平方メートル単位だが、既存箇所が複数ある場合は当該居室全体となります。
畳は1枚単位です。

賠償価格ですが、フローリングは全体を張り替えた場合は建物の耐用年数(木造なら22年、RCなら47年)でゼロになるような直線を想定し、退去時点の価格を賠償することになります。
部分補修の場合は経過年数は考慮しません(修理により全体の耐用年数が延びるわけではないので)。
畳について、畳表は経過年数を考慮しませんが、畳床は6年の耐用年数を想定し、上記フローリングと同じように計算します。

フローリングについては全面張り替えですごい金額を請求されていますが、経過年数を考慮するとかなり金額が下がりそうです。そもそも初めからついていた傷のようにも思いますし、部分補修も可能だと思うので交渉してみたいと思います。

(4)④風呂場とコンロ周りの汚れ

風呂場の水垢やカビは相談者様負担です。
ガスコンロ周りの油汚れ等も相談者様負担なのできちんと掃除していかないと結構な清掃費用を請求されます。

私の経験だと風呂場の窓ガラスの清掃費用を追加で請求されたことがあります。管理会社もこの辺は取りやすいと思っている部分なのでしっかり掃除しておきましょう。
賃貸借契約書の特約でクリーニング費用が定められていてその費用がそれなりに高額であるならば交渉の余地があるかもしれません。

争い方

理屈は分かりましたが、結局どうやって争うのでしょうか?

冒頭にも書きましたが、基本は少額の紛争であり交渉になります。
相手への牽制にもなるのでしっかりと反論の根拠を伝えることが大事です。
訴訟以外にも調停という手続もあります。

ちなみに、ネットや書籍を調べると解決方法として少額訴訟を勧めるような解説も散見されますが、以下に述べるように難しい手続だという点に留意する必要があります。
①即時に判決が書けるだけの書面・証拠を一般人が用意できるのか。
②相手が異議を述べると通常の訴訟に移行されるので無駄に時間がかかるだけということになってしまう。


以上になります。
恐縮ですが現在原状回復費用のみに関するお問い合わせは現在お受けしておりません。
悪しからずご了承ください。

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