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今回のテーマは最近出版された『子の監護・引渡しをめぐる紛争の審理及び判断に関する研究』(司法研修所編)という監護者指定の判断要素を分析した書籍の分析・まとめです。
ちなみに、離婚調停では親権者という名称で議論されますが、別居後から離婚までの暫定的な親権者を監護者と言いますので判断枠組等はほぼ同じです。
結論として、これまでの判断枠組みをより深く掘り下げた上で、話題になっている子の連れ去り別居についても一定の考慮要素になると明記している点が重要かなと思います。
とはいえ総合考慮の一要素に過ぎないと明記しているので、連れ去りの事情だけで結論が変わるような話ではないのですが、今後親権が争いになる様々な事案での判断枠組みが変わるということで思い切った要約にチャレンジしてみました。
気になる方はぜひ文献を直接ご確認下さい。
目次
先生!夫が子に暴力を振るうので子を連れて別居したところ、監護者指定の調停を申し立てられました!
監護者指定の調停というのは別居後から離婚までにどちらが子の監護者になるかを決める調停です。離婚時にどちらが親権者になるかというのと基本的には同じ判断枠組みです。
監護者(親権者)というのはどうやって決めるのですか?
従前の判断枠組は以下のとおりです。
ただし、あくまでも冒頭の書籍による分類・整理です。
①主たる監護者がどちらか(※一番大事な判断要素)
主たる監護者とは、出生以来主として子を継続的かつ適切に監護している者をいう。
子の年齢が高くなると重要度は下がっていく。
主たる監護者は監護の積み重ねにより子との間に精神的つながりが形成され、離婚後も主たる監護者による監護継続により子は精神的にも身体的にもニーズを満たされるというのが考慮要素として挙げられる根拠。
②監護環境の継続性
①に吸収されたと冒頭の本では整理されているが、まとめて継続性の原則と表現するものもある点に注意。
③子の意思の尊重
年齢が大きくなると重視される。
子が15歳以上の場合、子の陳述聴取は義務(家事事件手続法152Ⅱ)があるが、実際にはもっと年齢が低くても実施されている。
④きょうだい不分離
原則というほどのものではなく総合考慮の一要素にとどまる。
⑤監護開始の違法性
別居開始が違法な連れ去りだと考慮要素の一つになる。
違法な連れ去りというのは、例えば監護者が裁判所によって決まった後に、監護者ではない親が子を待ち伏せして有形力を行使して連れ帰るようなものを言うのであって、主たる監護者が平穏な態様で子を連れて別居することについては違法性はないというのが一般的な見解である。
⑥面会交流の許容性
他の親との面会交流に寛容であるか。
あくまで一要素に過ぎない。
⑦婚姻関係破綻の有責性
有責性(DV、不貞、悪意の遺棄など)が子の監護に悪影響となっている場合に初めて考慮。
あくまで一要素に過ぎない。
かつての日本では、専業主婦が多く、特に子が幼い場合は母親が育児の大部分を担当し、主たる監護者に該当するケースが多かったと思います。そうすると他の事情がどうであれ父親が監護権・親権を獲得するのは母親が子にDVをしているなどの例外的なケースに限られていた印象です。
しかし、共働きが当たり前になって、男性の育児休暇やテレワークが普及したりと環境が大きく変わっているので、新たな判断枠組みによるべきではないかというのが冒頭の書籍の研究です。
以上のように共働きが増えてきた等の事情により主たる監護者の認定が微妙なケースが増大したと言われています。
そこで多数の裁判例をもとに、上記①「主たる監護者」の判断要素をより深く掘り下げようというのが新たな判断枠組です。
Ⅰ 従前の監護状況
具体的には日常の世話※、しつけ、学校等との連絡を含む学習支援、病気や障害への対応をいう。
※乳幼児なら食事、着替え、入浴、寝かしつけ、遊びの相手、定期検診や予防接種
夫婦がどういうふうに分担してそれにより子とどういう関係を構築したかを評価する。
Ⅱ 今後親に期待できる養育行動及び提供可能な養育環境(※一番大事な判断要素)
養育行動:親の心身の状態、子の監護に充てられる時間、監護意欲、子の利益に対する配慮の姿勢。
養育環境:親の住環境、経済状況、監護補助者の有無、期待できる監護補助の内容、親と子の関係、同居親族と子の関係、子の通学先・通園先等の教育環境、子の交友関係。
子が転居する場合は子がどの程度適応できるかも考慮する。
現実的で無理がないものかも考慮する。
Ⅲ 子が親とどのような関係性を築いているか
上記③(子の意思の尊重)と少し被る要素で、もう少し客観的に判断しようといったところかと思われる。
監護態勢の比較で劣っていてもより強い愛着関係があって環境変化を乗り越えていけるとか年齢が高い子が片方の親により強い安心感心地よさを示している場合は評価ポイントの1つになる。
関係性評価においては過去の推移、今後の変化の可能性を評価する。
Ⅳ 子が親から他方の親との関係を維持するために必要な配慮を受けられるか
別居・離婚後ももう片方の親の存在は重要であるので、面会交流などの関係性維持に協力できるかということ。ただし、配偶者や子に対して暴力があるようなケースでは例外もある。
・子を連れて別居した親が理由なく面会交流を妨げている→監護者・親権者の判断において消極評価
・面会交流時に相手親の悪口を子に言う→同じく消極評価
・他の親に何の説明もなく無断で子を連れ出して別居→平穏な態様であっても消極的評価
※ただし暴力のあるような事案では例外的に考慮しない。
このような無断での連れ去り別居がなされた場合でも以下の対応があれば評価の低下は軽減される。
①別居前に別居の意向や理由を説明し理解を求めている。
②別居後に面会交流に積極的に応じている。
この点の記載が特に重要だと思いました。平穏な態様であっても同意なく子の連れ去り別居が始まるとその後単独での監護実績が積み重なって連れ去った方が有利になるのはおかしいという批判に配慮したのかなと思いました。
とはいえ監護者判断における総合考慮の一要素に過ぎないと言うことが強調されていますし、上記のように評価低下の具体的な軽減事由も書かれているのでバランスは取れているのかなと思います。
結局私は自分が監護者・親権者であることについて新しい判断枠組の4要素を意識した主張・立証を心がけると良いということですね。よく分かりました。
従前の判断枠組は母親が圧倒的に有利で時代にそぐわないという批判はよく耳にしていました。
冒頭の書籍は「主たる監護者」いう大雑把な概念で監護者を決めるべきではなく、もう少し細かく分析しようという提言のように思えます。
従前の判断基準に被る部分は結構あるけど新たな視点も提供されてるし、こういう文献が出たことで裁判所も積極的に柔軟な判断が出しやすくなるのではないかと期待します。
以上