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2019年の相続法改正における遺留分侵害額請求権に関する記事です。
弁護士の浅野剛です。
このブログは身近な法律問題を架空の法律相談形式でわかりやすく説明するものです。
第三回は2019年7月1日に施行される改正相続法の遺留分制度編です。
遺留分制度(相続財産についての最低限の保障を認める制度)が非常に使いやすい制度へと改正されて既に半年近くが経過しましたが、いまだに一般の方の認知度は低いです。
2019年の相続法改正で自筆証書遺言の方式が緩和された(※財産目録について手書きでなくてもよくなりました)ことに伴い、今後は遺留分が問題となるケースは増えるでしょうからいざというときのためにこのブログを読んで備えましょう。
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相談者:私の父は私が小さい頃に亡くなっていますが、母が先月急逝しました。
子どもは私の他には兄が一人だけです。
母は相続財産として、土地(5千万円相当)を持っていました。
遺言には、「私の財産は全て兄へ相続させます」とありました。
私にも生活があるのでいくらかでも欲しいのですがどうにかなりませんか?
私:事案を整理すると、相続人はあなたとお兄さん。相続財産が実家の不動産。お兄さんに財産を全て相続させるという遺言があるということですね。
このような場合でも、あなたには遺留分について主張する権利があります。
相談者:まずは旧法における遺留分について簡単に解説して下さい。
私:はい。旧法では遺留分についての権利主張は「遺留分減殺請求」という名称でした。
新法と大きく異なるのはその法的性質で、判例は形成権=物権説に立っていました。
これによれば、本件でお兄さんに対して遺留分減殺請求の通知を内容証明郵便を送付することで、ただちに遺留分を侵害している部分の遺言が無効になり、本件不動産について、あなたとお兄さんの共有状態となります。
あなたの遺留分割合は4分の1なので、
お兄さん:あなた=4:1で共有状態となります。
相談者:う~ん。兄とは仲が良くないですし、土地の持ち分だけもらっても困りますね。この共有状態というのは最終的にはどうなるんですか?
私:簡単に言うと、①どちらかが買い取るか、②売ってお金を分けるかです。
そこで、①あなたが買い取るのであれば、お兄さんの持ち分(4/5)×5千万円=4千万円をあなたがお兄さんに支払い、お兄さんが買い取るのであればお兄さんがあなたに1千万円を支払うのが最も簡単な解決方法です。
しかし、現実にはそのような大金を用意できないこともあり、その場合は②土地を売却することになります。
もっとも、相続人間で感情的なこじれがあったり、土地の上に誰かの建物がある場合、相続財産である土地が沢山ある場合などには売却自体容易でなく、解決まで数年間かかることもざらにあります。また、訴訟によって土地を売る場合、手続費用も相当額になります。
相談者:なるほど…。お手軽に「お金だけくれ!」ということができなかったんですね。
それで、2019年の相続法改正でどう変わったんですか?
私:簡単に言うと「お金だけくれ!」ということができるようになりました。
名称について、これまでは「遺留分減殺請求権」だったものが、「遺留分侵害額請求権」に変わりました。
そして、法的性質がこれまでの物権説でなくなり、単なる金銭債権となりました。
これにより、土地の共有状態が生じなくなり、遺留分相当額の金銭だけを請求できるようになりました。
紛争解決が格段に早くなったと言えます。
とはいえ、法的に難しい問題を含むことに変わりはありませんので、ご自身でやるよりも弁護士にご依頼されることをおすすめ致します。