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土地の境界で揉めた場合ってどうなるの?

土地境界の確定方法や境界確定訴訟のポイントを解説した記事です。


今回のテーマは『土地の境界で揉めた場合どうなるの?』、つまり境界確定訴訟です。

境界確定訴訟といえば、民事訴訟法で試験によく出題される分野ですが、実務ではあまり案件の多くない分野だと思います。
ただ、地方の法律相談会に行ったりすると毎回1件は相談されるような身近な問題ですので今回手続の流れやポイントを簡単にご説明したいと思います。

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写真は筆者撮影の剱岳(富山県)山頂付近です。


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相談者: 先生! 隣の土地の所有者と土地の境界で揉めています。これまで、境界の北側はブロック塀、南側は側溝の側の木の杭が先祖代々境界の目印でした。しかし、隣家が代替わりして、勝手に杭を動かしてきたりして困っています。

私:境界について紛争が生じている状態ですね。そもそも、境界には①私法上の境界と②公法上の境界があります。
 ①私法上の境界は私的所有・取引の単位ですが、②公法上の境界は課税上の単位を画するなど公的な側面がありますので所有者であっても自由にできないとされています。
 なお、②の公法上の境界について、法律学では境界(ケイカイと読むことが多い)と言うことが多いですが、土地家屋調査士の方は筆界(ヒッカイ)と言うことが多いです。どちらも同じものです。

相談者:難しいですね。私の場合どっちが問題なんですか?

私:両方です。

相談者:それでは、①私法上の境界と②公法上の境界とを確定する手続について教えて下さい。

私:まず、①私法上の境界については、任意交渉、民事調停や所有権確認訴訟が可能です。
②公法上の境界について確定する手続としては筆界特定制度があります。
これは土地の登記名義人などの申請に基づいて、筆界特定登記官が筆界調査委員の意見を踏まえて筆界の位置を特定する制度です。
 これは、①私法上の境界を特定する能力が無いので紛争の一挙解決が出来ない、そもそも相手方が応じてくれないと使えない、不服があれば結局境界確定訴訟になる、というデメリットがあります。

相談者:微妙ですね。土地家屋調査士に依頼して当事者間の合意でサクッと解決できないですか?

私:実際はそのような手法は良く用いられていますが、これも相手が応じないと使えないというデメリットがあります。また、当然ですが、測量には多額の費用がかかります。
 いずれの方法でも測量は必要ですが、この費用が時には100万円を超えることも珍しくなく、地価の低い地域ではきちんと白黒付けられない原因になっています。
 あとは土地家屋調査士によるADRの制度などがありますが、相手が応じないと使えない点は同様です。
 境界紛争においては隣地の所有者と全く連絡がつかないケースや、既に揉めていて没交渉となっているケースが多いのでこれらの手法はあまり使えないなというのが率直な感想です。

相談者:それではどうすればいいんですか?

私:境界確定訴訟を提起するのが良いと思います。
 上述の通り、①私法上の境界については、民事調停や所有権確認訴訟が可能ですが、普通は境界確定訴訟と併合提起(※2つの請求を同時に申立てること)して行います。

相談者:なるほど。ところで①私法上の境界と②公法上の境界と区別する実益って何があるんですか?実際の法的手続にどのような違いが生じますか?説明を聞いていると両者の区別が曖昧な気がします。

私:民事訴訟法の一般的なテキストにおいて、境界確定訴訟は形式形成訴訟と呼ばれ、処分権主義や弁論主義が排除され、和解が認められないなどとされています。
難しい概念ですが、要するに本来の訴訟では当事者主導で行う代わりに、当事者がその責任を負うという形で行われますが、境界確定訴訟はこれまで説明したように、公的な側面を含むために両当事者の介入が制限され、裁判所に一定の権能が認められるということです。

ただし、実際の訴訟進行ではおっしゃるように両者の区別はかなり曖昧だと感じました。裁判の流れも普通の事件と変わりませんし、実務上は和解も可能です。
そもそも裁判官が両者を厳密に区別して考えていないように感じました。

ただし、①私法上の境界については後述のように土地の取得時効が独自に問題となり得ますので一応区別して考えておきましょう。

相談者:そうなんですね。それでは訴訟に向けてどのような準備をすればいいですか?

私:まずは問題になっている土地の測量が不可欠です。また、問題の土地の公図や換地確定図などの図面、登記簿などの収集、境界付近に設置した杭やブロック塀建設に関する資料や写真などを準備して下さい。
 一番ネックになるのが上述した測量費用ですが、一般的な事案で、諸々の費用合わせて200万円程度はかかると思って下さい。

 なお、測量については、きちんと争うのであれば仮に被告側であっても行うべきです。

相談者:費用は何とかします。訴訟で争点となるポイントはどんなものがありますか?

私:②公法上の境界については様々な事情からどこが土地の境界か、という点が争点になります。公図や換地確定図などの図面と現在の測量データの整合性や昔の写真などとの位置関係の整合性がかなり重視されます。
 たとえば、本件では木の杭が相手方により勝手に動かされたとのことですが、埋設した杭の側にある側溝と杭自体との位置関係が当時の写真により明らかになればかなり有利な証拠になります。
 あとはその後の出来事の中で、杭がこちらが主張する場所にあることを前提に関係者が行動していたかどうかなども考慮しますが、これはどちらかと言えば弱い事情になります。

①私法上の境界についても、基本的には②公法上の境界と共通した判断がなされますが、独自に取得時効が問題になります。

相談者:どういうことですか?

私:立木やブロック塀などが境界上にある場合、そのブロック塀等により土地を時効取得していたと言える可能性があります。そうすると、たとえ境界の位置についての主張が認められなくても裁判で逆転できる可能性があります。

※取得時効の詳細については過去記事「取得時効で領土拡大していったら日本全土がマイホームに!?」をご参照ください。


土地の時効取得が認められると、①私法上の境界と②公法上の境界がズレることになるわけですが、実際に工作物を収去して土地を明け渡せというには①私法上の境界で勝たないといけないので、②公法上の境界で勝って①私法上の境界で負けると結局何のために訴訟をしたのかという話になりかねません。
こちらから訴訟を提起する際には十分注意したいところです。
境界の位置について、明らかにこちらの方が正しくても、相手が土地を時効取得していればこちらが代償金を払って土地を買い取る必要がありますので、感情的にも難しいことになってしまいます。

相談者:なるほど。

私:結局、多大なコストをかけても土地境界を確定させる経済的メリットがあるか考えて方針を決めるのが重要かなと思います。感情的な対立が激化しがちな事件類型ですが結局お金の話だということです。

以上

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