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はじめまして。
弁護士の浅野剛です。
このブログは身近な法律問題を架空の法律相談形式でわかりやすく説明するものです。
第一回は2020年5月17日までに施行される改正民事執行法の養育費編です。
今回の改正で、養育費請求権を持っている場合、相手の職場を照会できるようになりました。以下では手続の流れや注意点をまとめています。
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相談者:私は現在離婚済みのシングルマザーです。収入は元夫の方が明らかに多いので養育費を支払ってもらいたいと思っています。まずは、現行法に基づく養育費請求の流れを簡単に教えて下さい。
私:はい。まずは任意に支払ってもらえないか交渉します。養育費は一般的には裁判所のHPに掲示されている算定表に基づいて金額を定めますが個別に合意することも可能です。その際に注意すべきは、①養育費の終期、②特別な費用がかからないか、③履行の担保をどうするかです。
①について、2022年4月から成人年齢は18歳となります。大学まで行かせるのであれば「22歳となった年度の3月まで」などと合意することになりますが、裁判所が決定する場合、20歳までとされることが多いです。
②について、養育費の算定表は公立学校に通うことを前提に作成されていますから私立に通わせるのであれば増額を求める必要があります。また、お子さんが病気で継続して治療費がかかる場合は増額を求める必要があります。
③について、単に覚書を交わすだけでも一定の効力はありますが、不払いの場合、養育費調停→審判で覚書の効力を確定させる必要があります。一方で公正証書や調停終結時に作成される調停調書であれば、不払いがあった場合に直ちに強制執行が可能です。
交渉が決裂した場合、調停→審判となりますのでそれに備えて相手の給与明細や源泉徴収票などを入手しておくと安心です。
相談者:養育費が払ってもらえないケースというのはどういったものが想定できますか?
私:①そもそもお金がない(分からない)②自営業で資産もない(分からない)、③職場を辞めて雲隠れしてしまうパターンで回収ができないことがあります。
任意に払ってもらえない場合、給与の差押えを検討することになります。養育費は比較的少額な債権が継続的に発生するという特殊性があるため、預金や証券・不動産などを差し押さえるよりも同じく毎月発生する給与を差し押さえるのが合理的です。
ただし、給与の差押えをされるくらいならば職場を辞めると考える方もいます。また、自営業の場合、給与がありませんので仕事の報酬についての差押えは難しいです。そして、そもそもお金が全くないという方からお金を回収することはできません。
相談者:現行法において弁護士さんが財産や職場を調べることはできないんですか?
私:財産調査については弁護士会照会である程度調べることはできますが、手がかりがないと難しいです。また、職場を調べることはできません。
相談者:今回の民事執行法の改正では何がどう変わったんですか?
私:改正民事執行法206条で養育費債権を持つ者は、市町村又は日本年金機構や共済組合等に対して給与の差押に必要な情報(=職場など)の開示を求めることができるようになりました。
ただし、これを行うには、①把握している財産に強制執行しても完全な弁済を得られないことの簡易な立証(疎明)、②財産開示手続を先行させるなどの条件を満たす必要があります。
①については、債務者について想定される財産についてある程度詳しめの調査が書記官から求められます。
②については、債務者の住所が東京23区であれば東京地裁民事執行センターに申立てます(相手の住所が不明である場合この手続は使えません=職場の照会はできません。)。
申立実費は印紙2千円、予納郵券が6千円です。
財産開示の開始決定から約1か月後に期日が開かれ、出席した債務者に対して財産の有無などを質問することができます。債務者が不出頭、虚偽陳述及び正当な理由無く陳述しないなどの場合6か月以下の懲役又は50万円以下の罰金が科されます。
この財産開示手続によっても職場が不明な場合、改正法206条の情報開示請求ができます。
なお、得られた情報につき、目的外使用は禁止で、違反者には30万円以下の過料が課されますので、例えば、不貞の慰謝料請求の差押えを同時に行う場合に、照会によって得た情報で給与の差押えを行うことはできません。
相談者:難しくてよく分からないのですが、結局職場を調べてもらって、給与を差し押さえることができるんですね?
私:はい。結局、
①養育費を債務名義として確定させるために調停又は審判(又は公正証書)
↓
②支払われない場合に財産開示手続
↓
③それでも職場が分からない場合に改正民事執行法206条による照会という流れになります。
取得した債務名義は改正民事執行法施行前のものでも問題ありませんから、まずは養育費を確定させて、2020年5月17日までに施行される改正民事執行法に備えましょう。