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コロナ不倫!?探偵費用って請求できるの?

不貞の慰謝料請求の際に探偵費用が請求できるかについて解説した記事です。


今回のテーマは「浮気調査のための探偵費用の回収」です。

①探偵業者がそもそも仕事をしない等で探偵業者に返金請求する場合は、消費者契約法や民法を使って返金を求めます。前回の当ブログのテーマであるクーリングオフは使えないため難易度は高めですが成功実績はあります。

②それでは、不貞の当事者にこの費用を請求できないだろうか、というのが今回のテーマになります。

今回記事を書くに当たって、判例データベースをある程度網羅的に検索し、掲載されていた裁判例の傾向に私なりの分析を加えています。
 
なお、このブログは一般の方向けですので、裁判例の年月日や法令の摘示などは基本的に省略しています。

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相談者: 先生!夫が不倫をしているみたいです。探偵に依頼しようか迷っているのですが、調査にかかった探偵費用って請求できるんですか?

私:結論から言うと、探偵による調査が必要な場合に相当な範囲で認められる事がありますが、裁判所の態度としてはあまり積極的には認めていないように感じます。

相談者:請求しない方が良いのですか?

私:和解にせよ判決にせよ当初の請求額が一つの基準になるのは間違いないですからこれから述べる認容される傾向とマッチするのであれば請求した方が良いです。ちなみに探偵費用については訴訟外での和解ではほぼ認められないと考えておいてください。

相談者:訴訟外で認められないのはなぜでしょうか?

私:裁判例が確立されてきている不貞の慰謝料と違って、後述のように探偵費用は認められにくい傾向がありますので訴訟前の和解でそこにこだわるなら裁判で決着をつけましょうとなりがちだからです。

相談者:なるほど。それでは探偵費用についての裁判例の大まかな傾向を教えて下さい。

私:まず、探偵費用について明確に判断した最高裁判例はありません。しかし、以下の下級審判例を通してみると、当該探偵による調査が不可欠といえる場合にその限度で認容されるようです。そして、その額は請求額に比して低額であることが多いです。

相談者:探偵費用の請求が認められなかったケースについて教えて下さい。

私:いくつか裁判例を挙げますが、判旨を引用した方がニュアンスが伝わると思いますのでそうします。

①請求額29万8000円に対し認容額0円。
「不貞行為をしていることを被控訴人Aが自ら認めていたなどの本件における事情にかんがみると,控訴人Cが,探偵による調査を利用しなければ被控訴人Aの不貞行為の相手方を知ることが不可能であったとまではいえない上,本件各証拠上,その調査の内容等も判然としないことからすれば,本件において,探偵による調査費用を控訴人Cの損害として認めることはできない」。

これは、探偵による調査自体の必要性が否定されています。また調査内容も判然としない旨が指摘されています。この裁判例によれば、必要性を吟味した上できちんとした業者に依頼すべきだったということになります。

②請求額115万9,920円に対し認容額0円。
「原告は,その損害として興信所に依頼した被告及びAの素行調査の費用を主張する。しかし,上記調査費用は証拠収集費用であるが,いかなる証拠収集方法を採用するかは専ら原告の判断によるものであること,原告は平成27年5月6日の時点で被告とAとの不貞行為の存在を合理的に推認させるというべきカードキー,請求領収書兼請求明細書等の証拠を入手していたにもかかわらず,更に興信所に調査を依頼していることに照らし,上記調査費用は被告とAとの不貞行為との相当因果関係を認めることができないものというのが相当である」。

やはり、他に証拠がある場合に必要性が否定されたケースです。探偵費用は高額ですから依頼前に弁護士にきちんと相談すべきかと思います。

③請求額29万8,000円に対し認容額0円。
「被告Y1は,探偵に依頼した調査費用についても損害額として計上し請求しているが,本件の場合,被告Y1が探偵を利用したことによって原告X1と被告Y2との間の不貞関係が発覚したわけではなく,被告Y2の不法行為と被告Y1の支出との間の相当因果関係を認定するに足りないから,この費用を損害と認定することはできない。」

これによると、探偵調査によって不貞が発覚することまで必要と言うことになります。

相談者:なるほど。不貞発覚に必要であればいいのですね。

私:その場合でも直ちに全額認められるわけではありません。必要性は認めつつ、その金額について絞りをかけた次のようなケースもあります。

④請求額129万6,000円に対し認容額10万円。
「原告は,調査会社に支払った調査費用129万6000円(消費税込み)についても本件の損害である旨主張する。そこで検討するに,本件訴訟における被告の応訴内容からすると,調査会社による調査の必要性自体は否定できないが,調査結果は立証方法の一つにすぎないこと,原告は,本件訴訟において書証として提出されている調査報告書に係るもの以外にも複数回の調査を調査会社に依頼しており(原告本人),調査の全てにつきその必要性があったか否かは明らかでないこと,調査内容は,基本的には被告の行動を調査して書面により原告に報告するというものであり,そこまで専門性の高い調査とはいえないことなどに照らすと,上記調査費用のうち,10万円について,被告の不法行為と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である」。

あくまで相当な範囲でのみ認められるという点に注意が必要です。

相談者:全額認められたケースはないのですか?

私:次の裁判例が全額認容しています。

⑤請求額37万2,000円全額認容。
「原告が平成25年12月に被告名義の賃貸借契約書を発見し,Aに被告との関係を問いただした際,Aは不貞関係を認めず,原告は平成26年2月,Aと被告との不貞関係について調査を行わざるを得なかった。したがって調査費用相当額である37万2000円(甲17の1,2)は被告の不法行為と相当因果関係があるものと認められる。」

探偵を利用する必要性があり、その費用が比較的低額に納まっている点に特徴があります。

相談者:なるほど。まとめると結局のところ、どういった傾向があると言えそうですか?

私:そもそも探偵にも色々あり、探偵業法に違反して業務内容を明示しないような業者も散見されます。
これまでの裁判例を分析すると、⑴きちんとした調査を、⑵常識的な価格で行うことが必須ですから探偵費用を請求したい場合はきちんとした業者選びが重要になってきます。
また、そもそも探偵による調査必要性が認められるかについても法律的な判断が必要になりますのでご相談頂ければと思います。

不貞についての『固い』証拠があるかどうかで裁判の流れは大きく変わりますから今回の記事を参考に必要に応じて探偵を利用することも考えてみて下さい。

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