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今回のテーマは令和8年4月1日に施行が決まった離婚後の共同親権の判断枠組みについてです。
施行後に離婚するパターンと、施行前に離婚してこれから共同親権に変更するパターンが主に問題になると思うのでその二つを解説します。
解説にあたっては「家庭の法と裁判」の2025年10月号の東京家裁の裁判官の解説記事(特別企画改正家族法の要点と解説1)を参考にしています。
目次
先生!そろそろ妻と離婚しようと思っていますが民法が改正されて離婚後も共同親権になる可能性があると聞きました。どういう場合に共同親権になるのでしょうか?
そもそも単独親権・共同親権とは何かというところから解説していきます。
わかりやすく言うと、婚姻中の夫婦が子を育てている状態が共同親権です。
子が法律行為を行うためには親権者(=夫婦両方)の同意が必要です。
現行法だと離婚後は必ず単独親権なので、親権を取得した片方の親のみの同意でこれを行うことができるようになります。
これを、婚姻中と同じく双方の同意が必要な状態を維持させようというのが今回の法改正です。
離婚というのは大多数が夫婦間の協議のみで決着しますし、離婚後の夫婦関係もそこまで酷いことにならないケースが多いという実情に照らせば確かにそのようなケースでは子の利益に適う場面もあるとは思います。
しかし、夫婦関係が決定的に決裂した事案(弁護士が関わるのはほぼこれ)ではマイナスの効果も大きいように思います。
裁判所による判断枠組みはどうなりますか?
以下の事情があれば必ず単独親権になりますのでまずそういう事情がないか判断します。
①「父又は母が子の心身に害悪を及ぼす恐れがあると認められるとき」(同項1号)
→子に対する虐待のおそれがある場合、親権喪失事由や親権停止事由がある場合。
②「父母が共同して親権を行うことが困難であると認められるとき」(同項2号)
→父母の一方が他方から暴力を受ける恐れがある等
③その他の事情でも上記①②に比肩するものがあれば必要的単独親権となります(同項柱書後段)
子や配偶者への暴力行為を想定しているようですが、家庭内は密室なので立証の問題が生じます。
DVを受けた場合はケガの部位の写真撮影と診断書作成は最低限の対応として必要かなと思います。
上記の必要的単独親権の事情が認められない場合、裁判所は子の利益のため、(a)「父母と子との関係」、(b)「父と母との関係」、(c)「その他一切の事情」を考慮して共同親権か単独親権か判断します。
従前の親権行使に問題はないか、子の面前において父母間で口論を繰り返していないか、他方の親の悪口をことさらに言っていないか、子を父母間の紛争に巻き込まない配慮に欠けていないか、養育費を支払っているかなどが考慮されます。
父母の関係と親子関係を切り分けて子の利益のために協力できる関係にあるかが検討されます。
ただし、共同親権行使のために最低限の意思疎通ができさえすればよく、その意思疎通は第三者を解するものでも構わないとされています。
また、単独親権を求める親が、正当な理由がなく協力を拒み関係構築を阻害している場合、協力関係の構築を期待できないと判断するのは慎重になるべきとされています。
ここは実際にどのように運用するのか疑問です。
弁護士が介入する多くのケースで単独親権を求める子と同居する親が、もう片方の親との連絡等を拒否するということはよくありますが、だからといってそれで共同親権としてみてもうまくいかないように思います。
また、特段の事情のない事案では(a)「父母と子との関係」よりも(b)「父と母との関係」を中心に考慮することが記載されています。
注目すべき点として、離婚後に共同親権とするか・単独親権とするかはどちらが原則・例外の関係にあるものではないという記載です。
従前の議論からトーンダウンしているように思います。
改正法施行前に離婚成立して単独親権となり、施行後に親権者でない方から共同親権の申立てをする場合はどういう判断枠組みになりますか?
もし離婚時に改正法が施行されていたら共同親権を主張していたのにというケースは多そうです。
以下のような判断枠組みになります。こちらも従前の議論からトーンダウンしている印象です。
結論から言うと、共同親権への変更が子の利益のために必要ということが必要で、冒頭で紹介した文献を読む限りハードルは低くないように思います。
まずは上記3(1)と同じく必要的単独親権の事由がないかを検討したのち、これがなければ以下を検討します(新民法819条8項)。
①当該協議の経過(※裁判所が単独親権者を定めた場合は考慮事由とはならない)
→協議がDV等による影響を受けたものではないか。
②その後の事情の変更
→主観的な事情(考えや思い)の変化や一時的短期的な事情の変更が生じただけでこれを認めるのは適切ではないということです。
離婚後、十分な時間が経過していることを前提に、父母間・親子間の関係性がいかなるものだったかが重要です。具体的には、面会交流や養育費に係るやりとりを含め、父母間の連絡調整をどのように行なってきたか、父母間の子に関する話し合いの状況、他方の親への配慮・尊重の姿勢が有力な判断材料になるということです。
新民法が施行されたという事情だけではここでいう事情の変更には該当しないことが注記されています。
③その他の事情
今回参考にした冒頭の文献の執筆担当者に東京家裁の部総括判事が含まれており、今後の実務に与える影響は大きいように思いますが、この記載を読むと一般的な事例では単独親権から共同親権への変更は認められない可能性も十分にあるように思いました。
共同親権絡みの審理でしばらく家庭裁判所はパンクするのではないかなどという噂も聞こえるくらいなので、今回の冒頭の文献は裁判所からの牽制的な意味合いもあるかもしれません。
実際どういう形で運用されるかは事案の集積を待つほかないかと思いますが、また目立った動きがあれば記事にしていきたいと思っています。
以上