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遠隔地における離婚裁判手続を解説した記事です。
今回のテーマは『相手方居住地が遠隔地の場合の離婚手続』です。
離婚事件の基本的な管轄裁判所は相手方居住地の裁判所です。
それでは、相手方が沖縄に単身赴任している場合、期日の度に沖縄旅行をしなければいけないのでしょうか?
もしそうであれば、このご時世ですから新型コロナウイルスが怖いですし、交通費の負担も重くなってきます。
今回はこのような問題についてまとめつつ、対応も検討しています。
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相談者: 先生!私は専業主夫なのですが妻が仕事人間で離婚を考えています。ところで、私は今子どもと東京に住んでいますが、妻は来年から沖縄に単身赴任予定です。離婚の裁判ってどんな流れでどこでやるんですか?
私:まず、離婚の裁判の流れについて整理していきましょう。離婚をはじめとする家事事件の場合、まずは話し合えということで、調停を経なければ訴訟できません。
離婚事件については他に財産分与、親権、婚姻費用、養育費などの附帯処分の申立てが可能です。
ここまではこれまでのブログでも何度か解説してきたので専門用語だけ簡単に解説します。
調停:調停委員を介した話し合い。証拠や法律はそこまで重視されない。
審判:裁判官が主導して判断を下す点は訴訟と同じだが原則非公開で職権探知主義が適用されるため訴訟よりも裁判官の介入の度合いが強い。
財産分与:婚姻期間中に築いた財産の半分を請求するもの。
親権:子どもの親権者を決めるもの。
婚姻費用:離婚までの配偶者と子どもの生活費の請求。
養育費:離婚後の子どもの生活費の請求。
また、不貞などの場合は別途慰謝料請求訴訟をすることが考えられます。
まとめると以下のようになります。
※下記の図につき2021/1/20に改訂しました。
離婚という基本メニューがあって、附帯処分(財産分与、親権、婚姻費用、養育費)がオプションメニューになるイメージです。※オプションメニューのみの注文も可。
慰謝料請求はそれだけでやる場合は地方裁判所に提訴しますが、離婚訴訟とまとめて行う場合は家庭裁判所で行えます。
図の見方ですが、色分けされている箇所は別個の手続きです。
ただし、縦軸の”訴訟”では全てが同じ色になっていることからも分かるように、離婚訴訟という一つの手続きで全てが審理可能です。
また、複数の調停を同時に申し立てた場合、同じ裁判所で、同じ期日に審理されます。
※豆知識
ちなみに、婚費や養育費の請求には調停前置主義(家事事件手続法257条1項)の適用がありません。最終的に審判で判断されるため、「訴えを提起しようとするもの」(同条)に該当しないからです。
すると、調停を前置させず、いきなり審判を申立てた方が早いように思えますが、特段の事情が無い限り、裁判所は職権で調停に付してきます(同法274条1項)ので普通は①調停、②審判の流れになります。
相談者:私の場合、離婚自体、親権、養育費(婚姻費用)、財産分与あたりが問題になりそうです。慰謝料は関係ないですね。審判と訴訟って裁判官が主導して判断を下すという点では共通していると思いますが、附帯処分(養育費や親権など)ではどういうすみ分けになっているんですか?
私:表の通り、離婚自体を争うためには①離婚調停→②離婚裁判となります。
離婚訴訟は家庭裁判所で行う人事訴訟なのですが、離婚訴訟では附帯処分(財産分与、親権、婚姻費用、養育費)に加えて、本来地方裁判所で行う慰謝料請求まで全てまとめて審理できるという特徴があります。よって、この場合、附帯処分について「訴訟」になります。
逆に、既に離婚済み等の事情により附帯処分の中で、親権や財産分与、養育費についてのみ争われる場合は「審判」になります。
相談者:なるほど。離婚事件の全体像はわかりました。それで本題ですが、妻が沖縄に単身赴任する場合、どこの裁判所で審理するのですか?
私:どこの裁判所で審理するか、という問題のことを管轄と言います。離婚事件の管轄をまとめると次のようになります。
家事調停:相手方の住所地の家庭裁判所又は当事者が合意で定める家庭裁判所
家事審判
・婚費の審判:夫又は妻の住所地
・財産分与の審判:夫又は妻の住所地
・子の監護に関する処分の審判:子の住所地
人事訴訟(離婚訴訟):原告又は被告の普通裁判籍を有する地を管轄する家庭裁判所
相談者:ちょっと複雑になってきました!結論だけお願いします。
私:はい。離婚事件の場合、まずは婚姻費用の分担請求調停を先行して申立てるのがセオリーです。そうすると、来年にあなたの配偶者が単身赴任された場合、相手方の住所地の裁判所である沖縄の那覇家裁が管轄になります。
相談者:事前に管轄の合意ができないんですか?
私:相手にはデメリットしかないので応じてくれないでしょう。
相談者:毎回先生と沖縄に行くのは楽しそうですがお金が心配です。何か方法はありませんか?
私:単身赴任される前に申立てれば東京家裁で審理できます。
単身赴任後は相手の居住地の那覇家裁に申立てるしかありませんが、婚費調停の場合、私に依頼すれば私の所属する池袋の法律事務所で電話会議ができ、出頭の必要はありません。審判になった場合も同様です。
本人訴訟の場合、最寄りの裁判所がテレビ会議システムに対応していればこれを利用することも考えられます(普及率は意外と低いようです。また弁護士が付いている場合はテレビ会議の利用はできません。)。
相談者:離婚自体についての管轄はどうなりますか?離婚調停の管轄は那覇家裁だけですが、離婚訴訟については私の居住地の裁判所にも管轄がありますよね?
私:那覇家裁に離婚調停を申立てることになります。
私も調停を飛ばしていきなり訴訟を提起したことがありますが、裁判所の基本的な態度として、配偶者が長期間行方不明等の特殊な事情が無い限り調停を前置しないでいきなり訴訟することは許されません。
そうすると、結局那覇家裁で離婚調停です。
もう一つの方法としては、配偶者が単身赴任する前に東京家裁に離婚調停を申立てる方法が考えられます。そうすると婚費と離婚自体(+附帯処分)の2つの調停が同時に審理されることになります。
その場合でも婚費の審理を先行させるのが通常ですから大きな問題は生じません。
ただし、実際は離婚について和解がまとまれば婚費の協議をしなくて済むため、調停委員がまとめて審理しようとしてくることが多く、多少長引くので日程的に余裕があれば婚費だけ先行させる方が望ましいです。
相談者:那覇家裁で離婚調停の場合、電話会議でいいんですよね?
私:法令上、離婚調停が成立する場合には婚費の場合と異なり、調停の最終回のみ当事者の出席が必須です。しかし、実務上は調停に代わる審判という手続をとることで遠隔地の当事者の出席無しで離婚を成立させます。
滅多に使わないので上記概要図からは省きましたが『審判離婚』という形態です。
逆に離婚調停が不成立になった場合は、離婚訴訟になりますが、あなたの最寄りの東京家裁に管轄が生じるため、東京家裁に訴訟提起可能です。
相談者:色々複雑だったので最後にまとめて下さい。
私:結局、当事者の出席が求められるのは調停だけです。そして、本件では①単身赴任前に全て申立てるか、②電話会議の活用で概ね対応可能です。いずれにしても弁護士に依頼することをお勧めします。
相談者:わかりやすいですね!
以上