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不貞による慰謝料請求のいろは

浮気、不倫による慰謝料請求の基本事項を解説した記事です。

今回のテーマは『不貞の慰謝料請求』です。

一般的に関心の高い方の多い分野ですが、論点が沢山あるので何回かに分けて解説していきます。


第1回の今回はそもそも不貞とは何か、不貞をするとどうなるか等の総論編です。

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相談者: 先生!SNSで知り合った女性と性的な関係になってしまいました。何度か会っている内に嫁にバレて離婚しろ!などと脅されていますが応じる必要は無いですよね?

私:まず不貞の定義から検討していきましょう。条文上は「不貞」というワードは民法770条に離婚事由の具体例として挙げられているのみです。
そして、判例はこの「不貞」について、「配偶者以外の者と性的関係を結ぶこと」と定義します。

相談者:曖昧ですねぇ…。性的関係っていったいどこまでの行為を指すんですか?

私:原則として、自由な意思での性交及び性交類似行為がこれに当たると考えられます。

風俗店を利用しただけ、一度きりの過ち、酔っていたなどの事情があっても自由な意思で性交(類似行為)を行えば不貞です。


ただし、上記判例はあくまでも離婚の場面での判例である事に注意が必要です。

不貞の慰謝料請求の場面において、その法律構成としては『不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)』をしているわけですから、離婚と異なり、条文上の要件として「不貞」が要求されているわけではありません。


そして、不貞の場合に慰謝料請求できる根拠は、『婚姻共同生活の維持という権利を不貞行為によって侵害したこと』なので、肉体関係が無い場合でも婚姻共同生活の維持という権利の侵害が認められれば慰謝料が発生することになります。


したがって、慰謝料請求の場合の不貞は離婚の場合の不貞より広い概念と整理することも可能ですが、ややこしいので、不貞の定義を固定して上記判例と同様に肉体関係を伴うものに限るとした上で、不貞以外の行為(手つなぎデートなど一般に浮気といわれるような行為)でも場合によっては慰謝料請求の対象になり得ると整理します。

例えば、肉体関係はなくても、デートやキスなどを繰り返し行ったことであなたの婚姻関係が破綻させられた場合、慰謝料請求ができる場合もありますがその金額は肉体関係を持った場合よりも低額ですし立証が難しいので一般的に請求は困難です(したがって、このようなケースは本稿では割愛します)。

相談者:不貞行為に当たらないのはどのような場合ですか?

私:強姦されたなど自由な意思がない場合は不貞には当たりません。また、これまで述べてきたように手を繋いでデートするなどの肉体関係がないものも不貞に当たりません。
難しいのは不倫相手が同性だった場合です。これは離婚の場合における『不貞』には当たりませんが慰謝料請求は可能です。もっとも別の条項で離婚を主張することが可能ですので実際上の効果は異性の場合とほぼ変わりませんが、男同士で密室にいても当然にそういう行為があったと推認はされないでしょうから立証するのが少し難しくはなるでしょう。

相談者:それで不貞行為をするとどうなってしまうんでしたっけ?

私: そもそも、不貞の効果としては、以下の4つが考えられます。
①不貞行為を理由に離婚すること
②不貞行為を理由に慰謝料請求すること
③刑事処罰すること
④不貞配偶者と不貞相手が結婚することを禁止すること

若い人からすれば、③や④は一体どこの世界の話!?と思うかもしれませんが、戦前の日本では③④も法律で認められていました。特に江戸時代においては不倫は死刑だったようですよ。今が江戸時代じゃなくて良かったですね。


法律相談の場面で、離婚と慰謝料請求がごちゃ混ぜになってしまっている方がいらっしゃいます。

まずは、離婚したいのか(又はしたくないのか)、慰謝料請求をしたいのかという点から自分の希望を考えてみてください。

法律効果から逆算してその手段を考えるという思考方法ですね。

相談者:なるほど。だんだん頭が整理されてきました。
それでは裁判で慰謝料請求が認められるかのポイントについて簡単に教えて下さい。

私:まず、最大の争点になるのは不貞行為があったかどうかです。

探偵による証拠写真が出されても顔が鮮明に写っていない、ホテルなどへの滞在時間が不明又は短すぎるから性行為が無かったなど反論されることがありますので探偵業者にはしっかりと仕事をしてもらいましょう。
フェイスブックなどにアップした写真やスマホ内の写真・メールなどから不貞行為が明らかなこともあります。
しかし、このような場合でも既婚者と知らなかった、離婚に向けて別居中だと聞いていたなどの反論がなされることが多く、一筋縄ではいきません。


結局、不貞行為について客観性の高い『固い証拠』によって認定できないと慰謝料も低額になりますし、なかなか示談という流れにもなりませんから、ご自身での証拠収集が一番重要です。

ちなみに、示談できずに判決まで行く場合、尋問が必須ですから傍聴人の前で性行為について色々話すことになってしまいます。

相談者:私の妻はどこまで掴んでいるのかなぁ…。
法律論ももちろんですが訴訟上の駆け引きやら手続やらも難しそうですし、先生にお願いしたいと思います。
最終的にいくらくらいの慰謝料を用意しておけば良いんでしょうか?

私:離婚に至らないのであれば50~100万円程度になることが多いです。
100万円を超えることはほぼ無いというイメージで良いと思います。
離婚になる場合は200~300万円程度ですが婚姻期間や不貞行為の態様・回数など様々な事情を総合考慮する上に、示談の場合は相手の経済力など実際の回収可能性も考慮しますからケースバイケースですね。500万円程度が認められた判決もあります。
なお、離婚調停の申立があれば離婚に至ったのと同様の評価がされます。

慰謝料の相場についてはまた別の機会に改めて解説したいと思いますが基本的にはこんな感じです。

相談者:よくわかりました。私は大変なことをしてしまったんですね…。何とか示談できるようにお願いします。

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