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今回のテーマは「他人の物を壊した場合にいくら賠償すべきか」というものです。
身近なテーマを法律的に整理してみようという試みです。
目次
先生!友人にテニスのラケットを借りてプレーしていたら特にぶつけたりしていないのですが何らかの原因で折れてしまいました。私は友人にいくら払うのがいいのでしょうか?
順番に整理していきましょう。まずはあなたと友人の関係性・ラケットを借りた経緯によって法律上以下のパターンに分類されます。
友人に許諾を得ずに無断でラケットを使用した場合などが該当します。
この場合には当事者間に契約がないのであなたは不法行為に基づく損害賠償責任(民法709条)を負う可能性があります。
「ぶつけたりしていないのですが何らかの原因で折れた」ということなので、あなたにラケット損傷についての故意又は過失があるかが問題になりえます。
テニスラケットはそれなりに頑丈なので、あなたがぶつけていないのであれば経年劣化や元々ヒビが入っていた可能性もありそうです。本件のようなケースでは厳密な立証は難しいことが多いでしょうから責任を認めるか・争うかは最終的にはご自身の判断かなと思います。
この場合、ご友人とあなたの間には賃貸借契約(民法601条)が締結されていたことになります。
※契約の成立につき契約書は必須ではありません。
賃貸借契約によりあなたにはラケットを善良な管理者の注意をもって保管する義務が生じます(いわゆる善管注意義務。民法400条)。
借りていたラケットが壊れたので、あなたは返還債務について債務不履行に基づく損害賠償責任(民法415条1項本文)を負います。
この場合でも上記(1)と同様に、ラケット破損についての故意又は過失があるかが問題になりますが、上記の通り善管注意義務を負うので(1)より故意・過失が認められやすくなるでしょう。
実際はこのパターンが多いと思いますが、無償で借りていた場合はどうでしょうか?
実はこの場合も(2)と同じ結論になります。
無償で借りていた場合でも同じく善管注意義務(民法400条)が発生するという点は間違えやすいポイントです。
なるほど。まあ今回は相手が友人で揉めたくないので責任原因は争わないことにします。賠償責任があることを前提にいくらの賠償義務を負うのでしょうか?
本ブログで何度か紹介しているマンションの退去の際の国交省の原状回復のガイドラインあたりが無料でアクセスが容易で参考になると思います。
過去記事の「賃貸マンション退去の際の原状回復費用」参照。
結論から言うと、借りた時点の状態までの賠償義務を負うことになりますので新品を借りたのでない限りは新品価格をそのまま支払う必要はないです。
例えば、交通事故分野における携行品の賠償においてはその物の耐用年数(減価償却年数や耐用年数を示す資料から認定)で按分することが多いです。
また、上記賃貸借の原状回復のガイドラインにおいても同じように考えます。
Google検索で、「テニスラケット 耐用年数」と検索すると2〜3年と出てきますので仮に3年としましょう。
購入時のレシートを見せてもらって、購入年月日と価格を確認します。
例えばちょうど1年前に1万円で購入したものを壊した場合には約6666円を賠償するということになります。
それじゃあ4年前に5万円で買ったラケットだった場合にはどうするのですか?
そういう場合、仮にこれが交通事故の交渉で交渉相手が保険会社であれば、「耐用年数を過ぎているので本来ゼロですが、特別に新品価格の1割を提示します。嫌なら訴訟してください」と言ってきそうですが、現実の友人にそんなことを言うのはちょっと非常識と言われかねないと思いますので注意が必要です。
こういう場合は当事者本人同士の交渉では通常は人間関係に配慮して購入価格を払うケースが多いのではないかなと思います(もちろん当事者間の協議で金額が合意できればその金額でいいと思います。)。
ただし、新品価格に加えて破損に伴う費用(買い替えのための交通費、買い替えのために仕事を休んだ減収分、愛用のラケットが壊れたことについての慰謝料等々)まで請求されたらかなり過剰な請求になっている可能性があるので一度弁護士に相談すべきかなと思います。
一方で、貸した方としては訴訟で解決するのが難しい事件類型になりますので、そもそも大事なものは他人に貸さない(最悪1円ももらえない可能性を考慮しておく)という紛争予防が重要だと思います。
金額は大きくなくても心情的に結構揉めることが多いので、大事なものは借りない・貸さない・保険に入るなどの対応でトラブルを未然に防止しましょう。
以上