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今回のテーマは『回転寿司の醤油差しを舐める行為』についてどのような犯罪が成立するのかについての考察です。
類似事例が最近話題になっており、弁護士の間でも見解が分かれる問題ですので簡単にまとめてみました。
※以下はあくまでも架空の事例を想定しており、実際の事案とは無関係です。
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相談者: 先生! 息子がSNSに回転寿司の醤油差しを舐める動画をアップロードしたら威力業務妨害罪で逮捕されてしまいました。息子はどうなってしまうのでしょうか?
私:最近回転寿司で似たような行為が問題になって騒がれていますね。そもそもどのような犯罪が成立するかという点にも議論がありうるところです。
相談者:他にはどういう見解があるのですか?
私:せいぜい器物損壊罪(刑法261条)が成立するにとどまるとする見解を見かけました。
相談者:両者の違いは何ですか?
私:まず法定刑ですが、器物損壊罪は3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料です。威力業務妨害罪(刑法234条、233条後段)は3年以下の懲役又は50万円以下の罰金です。
相談者:あれ?そんなに変わらないですね。少しだけ威力業務妨害罪の方が重そうに見えますが。
私:犯罪の性質が違うからです。器物損壊罪は個人的な法益に関する罪ですので被害者と示談できれば不起訴になります。
一方で威力業務妨害罪は社会的の自由に対する罪でありこの犯罪が保護しようとしている法益がより広いです。
その結果、処罰範囲がかなり広く、不明確になっていてこの点は批判もされています。
例えば業務を妨害したかどうかについても現実に業務に混乱や支障が生じる必要はなくて、業務妨害の恐れのある行為があれば足りると考えられています。
相談者:なるほど。つまり業務妨害罪だとお店と示談しても前科がついてしまうのですね。
私:それに加えて、その動画が拡散されてお店は各社対応を余儀なくされ、売り上げも減ったと聞きますので醤油差しを舐める行為のもたらした実態、すなわち業務が妨害されたという事実に即した刑罰を課すべきという考えがあるように思います。
相談者:ところで、醤油差しを舐める行為は「威力」による業務妨害なのでしょうか?
私:「威力」については人の意思を制圧するに足りる勢力を示すこととされています。
ただ、すでに述べた通り、処罰範囲が広範かつ不明確なのでこれまでの裁判例等を見ていきましょう。
《威力に当たるとされた事例》
・弁護士の業務カバンをひったくって2か月隠した事例
・百貨店の食堂配膳部に蛇20匹を撒き散らした事例
・競馬場の本馬場に平釘1樽分を撒いた事例
・大学に爆弾を仕掛けたと虚偽の通知をした事例
・上司の机の引き出しに猫の死骸を入れた事例
《威力に当たらないとされた事例》
・警察に犯罪予告の虚偽通報をした事例
→意思制圧がないので偽計業務妨害罪
・宅配ピザに大量の虚偽注文をした事例
→同じく偽計業務妨害罪
相談者:あれ?挙げていただいた事例と比べるとピンときませんね…。
私:一応、物に対する暴力的行為があって、その結果業務が妨害されることが必要という縛りはありますが、本件では醤油差しを舐めたに過ぎないので上で挙げた事例に比べると暴力的行為という点が弱いように感じます。
「人の意思を制圧するに足る勢力を示す」という「威力」の定義からかなりズレてきているように思いますし、該当するとしても限界事例ということになると思います。
とはいえ、捜査機関としては、これを前例にして処罰範囲をどんどん拡大させていこうとするでしょう。
しかし、どの行為がどの犯罪になるかが不明確で、その時の国家権力の解釈で決まってしまうというのは中世みたいで怖いですね。
以上
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